2008年06月04日

「Frost at Christmas」

20080604[FrostAtChristmas].jpg

R. D. Wingfield 著
Bantam Books 出版

 主人公はJack Frost。警察社会という一般社会より窮屈そうな環境のなかで、どこまでもマイペースを貫く中年男性です。妻に先立たれ、家に帰ってもひとり。ほかにすることもないからなのか、時間を気にすることもなく深夜まで仕事し、早朝からまた仕事。でも、目的は出世でもなく、仕事の鬼というわけでもない。なにしろ、上司の命令をまともに聞いているふうでもなく、上司に気に入られることなど眼中にない。しかも、ペーパーワークは、からっきしだめ。部下の勤務報告さえ、忘れ果てる始末。しかし、みんなに残業代が期日通り支払われないことを気にしないわけではない。部下のことを気遣い、落ち込んでいる様子。そういうところがなんとも憎めない。組織の上のほうのことは全然気にするふうでもなく、自分のことを気にするふうでもなく、しかし部下のことは気遣い、迷惑をかけている自分に気づくと落ち込む。ただ、悲しいことに人から指摘されないと気づかない。

 現実社会では、できれば、Jackのような上司は勘弁して欲しい。まして、絶対彼氏にはできない。なにしろ、デートの約束さえ、部下の勤務報告同様忘れ去り、約束をすっぽかしてしまったことを指摘され、ちょっと落ち込む。けれど、しっかり彼女のベッドのもぐりこんでしまうような、なんとも表現しがたいことをしてしまうのです。

 でも、自分に何ら関係ない世界のこととなると、俄然笑えてしまいます。その強烈な個性は、物語を彩る素敵なパーツになってしまうのです。

 そのほかの面々もかなり個性的です。優秀な上司と組ませてもらえる予定だったのが、その上司が急に体調を崩したために、Jackと組むことになってしまった、Clive Barnard。彼は、警察社会の有力者の親戚で、本来特別待遇でもおかしくないのに、そんなことまったく頓着しないJackと組む破目に陥ってしまったところが、また笑えます。

 ストーリーもよくできています。時代も背景も異なる事件がバラバラに進行するにも関わらず、最後はうまくまとまってしまいます。しかも、主人公であるJackが、論理的にひとつひとつパズルを嵌めこむように結論を導くのではなく、なんとなく行き当たりばったりのように見えて、変なところで鋭い勘を発揮したり、肝心な作業を忘れて、読者をやきもきさせたり。登場人物の個性がストーリーのおもしろさを引き出しています。

 現実には身近にいてほしくはないけど、上司を気にせず、マイペースで、ちゃっかり彼女もいるJackを、自分の会社生活に当てはめてみると、痛快だったり、ちっぴり羨ましかったり、共感できたりします。最後には、そのJackが、危ないめに遭いながらも、しっかり事件を解決するあたり、爽快です。

 シリーズになっているので、次も再販されれば読んでみたいと思います。
posted by 作楽 at 00:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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