2008年06月05日

「Walk Two Moons」

20080605[WalkTwoMoons].jpg

Sharon Creech 著
Trophy Pr. 出版

 「The Midnight Diary of Zoya Blume」を思い出しました。たぶん、母親に対する切ない少女の思い、という共通点があったからでしょう。

 ただ、全体としては、「Walk Two Moons」のほうがよかったです。ひとつは、サスペンスかのように、ひとつひとつの疑問が解けていく展開が楽しめました。あと、主人公の少女Salamancaの成長がより大きくて、より感動できました。Salamancaは、いろんな方法で自分自身の中で考察を重ねていきます。自分と似た経験をした少女を第三者的に眺めたり、差出人不明のカードに書かれた不思議なメッセージを自分の経験に照らし合わせてみたり、周囲のおとなの気持ちを自分の気持ちから推し量ろうとしたり。その一歩一歩進んでいる姿を見て、微笑ましく感じたり、励ましを送りたくなったりします。そして、何よりも、死という誰もが避けられない壁に向かう彼女に、自分にはない逞しさを見て、逆に励まされてしまうのです。

 十代を読者として想定している本にも関わらず、かなり感情移入してしまいました。たぶん、あちらの視線になったかと思えば、こちらの視線になったりと、感情移入しやすい対象が多かったのだと思います。

 もちろん、一番感情移入してしまったのは、主人公のSalamancaに対して。それは、十代という年代がわたしにとって、やり直したい年代であることも関係していると思います。自分でも不思議ですが、わたしの十代の内面は空虚だけに支配されていたのではないか、と今は思えるのです。精神的に成長したとか、葛藤したとか、そういう記憶がほとんどありません。もちろん個人差はあると思うのですが、自分自身の十歳になるまでと、二十代を考えても、何もなかった気がします。もしも、わたしが十代もう少し考えることに時間を費やしていたとしたら、もしも、この主人公と似たようなことを考えていたらと、「もしも」の世界にはまってしまい、今となっては取り戻せない自分を想像してしまうことが多々あります。こちらは、過ぎ去りし日々の後悔です。

 もうひとつは、後悔と反対の希望です。どんなに頑張っても過去のことは変えられません。でも、未来は変えられます。この本を読んで、わたしはSalamancaの祖父母のような年齢の重ね方をしたいと思いました。Salamancaと一緒に旅をするおじいちゃんとおばあちゃんは、無邪気に旅を楽しんでいるように見えるのですが、もちろんそれだけではありません。おおらかな優しい気持ちで彼女を包み込んでいます。子どもとおとなという区切りを感じさせません。子どもであっても、ひとつの別の人格として尊重しているのがよくわかります。こういう本を読むと、わたしもそういうおとなでありたいと思います。普段から心掛けられているわけではありませんが。

 自分ができなかったこと、自分が今できていないことを仮想で体験する。それも小説の愉しみのひとつです。これは、そういう愉しみが成り立つ本でした。
posted by 作楽 at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書(Young Adult) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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