2024年04月12日

「半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防」

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クリス・ミラー (Chris Miller) 著
千葉 敏生 訳
ダイヤモンド社 出版

 著者 (アメリカ人) は、序章で『アメリカは、シリコンバレーの名前の由来となったシリコン・チップを現時点ではまだ支配しているが、近年、その地位は危険なほど弱まっている』と書いています。それに続いて、チップの歴史を振り返り、現時点でのチップにまつわるリスクを著者なりに分析しています。

 この本は、第二次世界大戦の終戦期を振り返るところから始まりますが、チップの歴史を正しく理解するには、本当の『戦争』、つまり熾烈な競争などの比喩ではなく、武器をとって殺し合う戦争の歴史を知ることが戦後世代にとっては不可欠なようです。

 そして、ロシアがウクライナを侵攻したように、中国が台湾を侵攻するかもしれないリスクを考えるとき、わたしたち日本人は、戦争というものを少しは具体的にイメージする必要があるようです。たとえば、『ロシアがウクライナ侵攻開始から数週間足らずで誘導巡航ミサイルの不足に見舞われた』いっぽう、『ウクライナは、1 発当たり 200 個以上の半導体を駆使して敵の戦車を狙い撃ちするジャベリン対戦車ミサイルなど、西側諸国から大量の誘導兵器の供与をうけている』と書かれてありますが、もしこれが中国なら、ロシアほどの窮状に陥ることになるのでしょうか。

 半導体をめぐる熾烈な競争を知りたいと読み始めたものの、半導体を生み育てたのは、戦争に備えるための資金や枠組みであったと知り、半導体と戦争は文字どおり、深く関係するのだと知りました。ほかにも、日本ができなかった設計と製造の分離、グーテンベルク革命になぞらえて『ミードとコンウェイの革命』と呼ばれている手法に資金を提供したのは、DARPA だったことも知りました。

 ただ、IoT の時代、国が国防予算でチップを育てるのも難しくなりました。著者は『国防総省 (ペンタゴン) の 7000 億ドルという潤沢な予算でさえ、国防目的の最先端の半導体製造工場をアメリカ本土に建設するには足りないのが現状』だと書いています。

 アメリカは、チップの設計で重要な役割を担っていますが、製造は台湾に頼っています。では、どう国を守るのでしょうか。アメリカは、『依存』を『武器』に変えることにしたようです。ロシアがウクライナに侵攻した際、ロシアの銀行を SWIFT から締めだしたような、『エンティティ・リスト』を使って中国のテクノロジー大手ファーウェイを締めつけたような手法です。

 しかし、それも相互依存のなか、一定の優位性がなければ、効果は得られません。だからアメリカは、テクノロジーにおいて『相手より速く走り、競争に勝つ』という方針を 1990 年代から掲げています。

 それは、実現可能な目標なのでしょうか。先行者利益 (ファースト・ムーバー・アドバンテージ) は、時代とともに大きくなり、汎用 AI などは最初の開発社がすべてを得るとも言われています。これから必要とされるチップも速いスピードで変わっていくことでしょう。

 この本を読み、わたしの不安はより大きくなった気がします。ただ、チップのサプライチェーンで重要な役割を担う、リソグラフィ装置メーカー、オランダの ASML に対する疑問がとけたのは、収穫でした。1980 年代から 1990 年代にかけての日米貿易摩擦でオランダが中立的だったこと、競合企業との結びつきの深い日本のメーカーを避けて発注する企業が増えたこと、さまざまな供給源から調達した部品をひとつにまとめる能力が突出していたことなどが理由だったようです。

 500 ページほどの大作ですが、それだけの時間をかけて読む価値はありました。
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2024年03月16日

「小学生がたった 1 日で 19×19 までかんぺきに暗算できる本」

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小杉 拓也 著
ダイヤモンド社 出版

 いまさら自らの計算力を磨く意味もないのですが、ベストセラーの理由を知りたくて読みました。

 タイトルにあるとおり、2 桁の掛け算のうち、19 以下の数字に限って暗算ができるようになります。21×22 のような掛け算は含まれませんが、大切なのは、筆算以外で答えを求める方法があり、しかも、暗算できるほど簡単な手順が見つけられることを子どもでも理解できる点です。

 問題解決には、それまでと違う視点をもつことも大切だと学べる本だと思います。15×19 という掛け算を例に種明かしをすると、次のようになります。著者は、独自の計算手順に『おみやげ算』という名前をつけて紹介していて、15×19 の掛け算を四角形の面積計算になぞらえています。ポイントは、四角形を分割して配置を変えるとき、一辺が 10 になるように分けることで、暗算ができるようになっている点です。

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 教えられた方法を実践するだけでなく、違うアプローチで答えを見つけられないかと子どもたちが思ってくれたら、素晴らしいと思います。
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2024年03月15日

「日本とウクライナ 二国間関係 120 年の歩み」

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ヴィオレッタ・ウドヴィク 著
インターブックス 出版

 ウクライナがロシアに侵攻され、毎日のようにウクライナのニュースを見聞きする状況でなければ、この本に興味をもつこともなかったと思います。ただ、実際に読んでみると、120 年にわたる、日本とウクライナの交流が、よくまとめられているという印象を受けました。浅くとも広く記録された有益な内容だと思ういっぽう、退屈にも感じます。多岐にわたって紹介されているものの、すべてに関心をもてるわけではないためです。

 わたしが関心をもったのは、文学です。新潮社クレスト・ブックスから出版されている「ペンギンの憂鬱」(2004 年) や「大統領の最後の恋」(2006 年) などの翻訳作品を読んでみたいと思いました。

 しかし、何よりも一番印象に残ったのは、原発事故にかかわる両国の関係です。1986 年 4 月、チェルノブイリ原発 4 号炉が爆発しました。その年の 10 月、読売新聞社と日本対外文化協会は、広島と長崎の被爆者の治療、調査などに実績をもつ 4 人の放射線医学者を『医学協力団』として派遣したそうです。

 それから 25 年経ち、東日本大震災のおり、福島第一原発事故が起こり、日本からウクライナへの支援は相互協力へと発展し、ウクライナの専門家が日本側と経験を共有するようになったそうです。

 地震や津波が日常的に起こる日本において、『安全』を第一に考えれば、電力の一部を原発に依存するのは誤りだったとすれば、それは、セーフティーカルチャーが欠落していたチェルノブイリ原発事故と同じところに原因があると考えられるのではないでしょうか。

 同じ過ちを犯してしまった、ウクライナも日本も、これからどのように廃炉していくのかといった知見を共有しながら、原発のリスクやコスト、付随するさまざまな情報を発信してほしいと思います。
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2024年02月23日

「幸せに人生を終えた人から学んだこと」

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 著者は、理想の死に方を手に入れるために必要なのは、次の 2 つのことだと気づいたそうです。

(1) 愛されること
(2) もしものときに備えること

 著者の考えに異論はありませんが、(1) については、中年になってから頑張っても難しいかもしれません。高齢者にとって、病気や認知症というのは身近な問題だからです。残念ながら、病気になっても認知症になっても、うわべを取り繕うのは難しくなり、人の本質がさらけだされてしまいます。自己中心的な考えでずっと生きてきて、いきなり周囲から愛されるような人物になれるとは思えません。

 しかし、(2) については、最期が近づいている事実から目を背けず、どういう終わりを望むのか、真剣に考えればなんとかなる気がします。たとえば、身の回りのことができなくなったら、施設に入所したいのか自宅で過ごしたいのか、さらにいよいよとなったとき、延命治療を望むのかといったことを事前に考え、用意しておくのはいいことだと思います。

 ちなみに、著者は (1) に必要なのは、@笑顔、A感謝と好意を伝える、Bポジティブに切り替える、C意志を貫く、D想像する、E与え続けることだといいます。病気や認知症にもかかわらず、それだけのことができれば、自分の身の回りのことを助けてもらう必要があっても、愛されるのは間違いない気がしますが、なかなか難しいことばかりです。
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2024年02月20日

「脳科学はウェルビーイングをどう語るか ?」

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乾 敏郎/門脇 加江子 著
ミネルヴァ書房 出版

 この本では、脳の仕組みを知れば、ウェルビーイングにより近づけるのではないかと考えられています。『ウェルビーイングは、個人の主観的な幸福感や生活の質を指し、身体的な健康だけでなく、感情的な充足感、社会的な関係、生活の目的や意味、個人の成長や達成感など、より広い範囲を包括しています』と説明されています。

 では具体的に、幸福感などの『感情』は、どのように決まるのでしょうか。この本によれば、覚醒度 (活性あるいは穏やか) と感情価 (ポジティブあるいはネガティブ) というふたつの軸の組み合わせで決まるそうです。覚醒度がやや活性サイド寄りで、感情価がポジティブだと幸せを感じるようです。『感情価』とは、環境や内臓状態に対する予測誤差の時間変化で決まります。予測誤差が減少する、つまり予測どおりだとポジティブな感情になり、予測誤差が増加するとネガティブな感情になるそうです。

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 感情が決まる仕組みを知って、思い当たることがひとつありました。それは、主観的幸福感を世代別に調べた調査で、中年に向けて幸福感がいったん低下したあと、加齢とともに幸福感が高くなっていくという結果でした。わたしのイメージでは、シニアになってからは、体力が衰えたり、交際範囲が狭くなったり、幸福感が低下すると想像していたので、違和感を覚えました。しかし、年齢を重ね、予測がより正確になり、誤差が長期的に見て減少すると仮定すると、そういった調査結果になる得るのではないかと思いました。

 また、感情価がポジティブだと、注意を払う範囲や視野が広くなることもわかっているそうです。広く周囲に目を配ることができれば、他者との関係性も向上し、ウェルビーイングにも影響しそうです。

 感情がどのように決まるかなど、これまで考えたこともありませんでしたが、もっと知りたくなりました。
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