2021年11月09日

「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」

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ビル・パーキンス (Bill Pearkins) 著
児島 修 訳
ダイヤモンド社 出版

 最初に、誰もが知るアリとキリギリスのイソップ寓話が持ち出され、アリはいつ楽しいときを過ごすのかという問いから始まります。

 わたしたちは、この寓話と違って、アリとキリギリスの生き方の中間にある最適なバランス、つまりキリギリスよりは節約し、アリよりも今を楽しむような人生を目指すべきだと著者は説きます。今しかできない経験のために使える金を無駄に貯めこむのはやめ、死ぬまでに金をすべて使い切ること (DIE WITH ZERO) を勧めています。

 その目標を実現するためのルールを自らの経験をもとに語っています。問題は、ヘッジファンドマネージャとして成功をおさめた著者の経験の多くが、わたしたちの状況と違い過ぎて実感がわかない点です。それがこの本の評価を少し下げている気がします。ただ、著者の考え方を理解し、自分自身の収入や資産と相談しながら、自分なりに DIE WITH ZERO を実践することは可能だと思います。

 著者は、この目標を実践するためのルールを 1 から 9 まで紹介していますが、印象に残ったのは、次のようなものです。

ルール 2:一刻も早く経験に金を使う

 老後の備えとして貯蓄する方は多いと思いますし、わたしもそのひとりです。でも、体力が衰えた老後において価値が高まるのは思い出であり、その思い出になるような経験に早い段階で投資すべきだと著者は言います。そうすれば、その思い出を楽しむ時間も増えると言うのです。

ルール 3:ゼロで死ぬ

 ゼロで死ぬことを目標に逆算しようとしたとき、病気になったとき、高額な医療費がかかるのではないかという不安をどう見積もるかが問題になります。著者は、残り数カ月を延命できる高額医療に意味は見いだせないと言い、『人は皆、遅かれ早かれ死ぬ。最後の数日、数カ月を生き延びるのに必要な医療費を貯めるために、人生の貴重な数年間を犠牲にしてまで働きたいと思うだろうか?』と、問いかけます。さらに、健康を保つための『予防』に投資することを勧めています。

ルール 4:人生最後の日を意識する

 死を意識し、人生という限られた時間の大切さを意識するためにも、自分の推定死亡日までの時間をカウントダウンするアプリを著者は勧めています。(著者は、『Final Countdown』を使っているそうです。)

ルール 7:やりたいことの「賞味期限」を意識する

 私たちが思っているほど先延ばしできない経験は多いにもかかわらず、私たちはそれを自覚していないと著者は指摘しています。

 特に大事なのは『賞味期限』を考えることではないでしょうか。平均寿命などから、自分の人生がどのくらいで終わりそうか考えていても、それまでの道のりで体力や知力がどう衰えていくのか、イメージできていませんでした。そういったイメージをこれまでより具体的に描きながら、いつまでに何を実現したいか、考えてみたいと思います。
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2021年11月07日

「くまとやまねこ」

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湯本 香樹実 文
酒井 駒子 絵
河出書房新社 出版

 表紙になっているくまの物静かな雰囲気に惹かれて手に取ってしまいました。くまの肩にいることりは、くまとなかよしで、とても大切な存在でした。でも、タイトルに登場するのは、ことりではなく、やまねこです。

 これは、ことりがいなくなったとき、くまに寄り添うやまねこと一緒に歩きだしたくまの物語なのです。『寄り添う』と言うのは簡単でも、行動に移すのは難しいことです。

 やまねこの持っていた古いタンバリンは、やまねこもまた、くまと同じように悲しい思いをして、立ちどまってしまった過去を暗示しています。やまねこはそのとき、どのようにして再び旅に出たのでしょうか。旅に出たとき、前より強くなり、前より相手に優しくできるようになったのかもしれません。

 少し立ち止まる時間を自分と共有してくれるひとがそばにいるとき、ひとは再び歩きだせるのかもしれません。くまの再生物語の結末に描かれているのは、くまとやまねこのうしろ姿です。そのときのくまの表情がないだけに、自分なりのくまの笑顔を思い描くことができました。
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2021年10月22日

「精神科医が教える ストレスフリー超大全」

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樺沢 紫苑 著
ダイヤモンド社 出版

 在宅勤務疲れを感じていたこともあり、ベストセラーになっていた本書を読んでみました。『超大全』と謳っているだけあって、人間関係、プライベート、仕事、健康、メンタル、生き方など幅広いジャンルが取りあげられ、それぞれの分野でストレスになりそうな原因ごとに対処法がアドバイスされています。

 頭の片隅というか、心のどこかで、そうしたほうがいいと思っていた対処法が多く、わたしにとっては、納得できるものでした。たとえば、『コンフォートゾーン (快適領域)』を出るべきという考え方です。いつも行く場所、いつも会う人、いつも食べるものではなく、初めての場所、人、イベント、お店などに出かけ、人生を楽しむべきかもしれないと思えました。

 ただ、わたしにとって馴染みのない考え方もありました。それは、幸せには種類があり、著者は、次の@からBの順序で実現することを勧めています。

@『セロトニン』的幸福
『やすらぎ』『癒やし』『気分』の幸福感のことで、『健康』を実感する幸福と言い換えることができます。ポジティブで前向きな気分に包まれるなら、セロトニンが分泌されていて、逆に分泌されていないと、『不安』『心配』『イライラ』といった状態に陥ります。(心や体の病気になると、セロトニンは低下します。)
 朝に散歩したり、マインドフルネスや腹式呼吸を実践したり、笑顔になると、セロトニン的幸福を手に入れることができるそうです。

A『オキシトシン』的幸福
『つながり』の幸福感のことです。
 スキンシップ、コミュニケーション、ペットとの触れ合いなどを体験したり、人に親切にしたり、親切にされたときにもオキシトシンは分泌されます。

B『ドーパミン』的幸福
『やる気』による幸福感です。達成感や高揚感に関連しています。
 社会的成功を手に入れたり、設定した目標を達成したり、運動したり、笑顔や瞑想によっても、ドーパミン的幸福を手に入れることができます。

 著者は、Bドーパミン的幸福に囚われ過ぎると不幸になりかねないと注意を促しています。このように理論的に優先順位を考えたことはありませんでしたが、健康だからこそ、周囲に優しくすることもできるし、仕事なども頑張れることを考えると、こういった順位づけは大切かもしれません。
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2021年10月01日

「プロフェッショナルの言葉」

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NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』制作班 著
幻冬舎 出版

 番組制作班によってまとめられた 81 の仕事訓が載っています。知人から譲り受けたことをきっかけに読んだのですが、人によって響くことばは違うのだと実感しました。その知人はわたしと違って、自己肯定感がとても強く、常に人と接する仕事をしているからか基本的に人の助言には耳を貸しません。

 そんな知人に響いたことばのひとつは、企業再生弁護士の村松謙一氏のことば『情けは人のためならずってね。それは依頼者に教えてもらったんだよ』です。経済合理性が叫ばれる今でも、小さな思いやりが世の中を巡っていくと信じる村松氏の信念に共感したようです。

 また、『批評家になるな。いつも批判される側でいろ』ということばを伝えた脳神経外科医の上山 (かみやま) 博康氏の『こと患者さんに関わる問題となると、自らが正しいと信じる意見を絶対に曲げ』ない姿勢にも感銘したようです。

 翻って、わたしが共感できたのは、『やんなきゃいけないところに自分を追い込んで、どれだけ粘れるか。理由や言い訳は幾らでもある。ヘボが作る映画は、ヘボなんだよ』という宮崎駿監督のことばや、『私にできることは、最後の最後まであきらめないことだけだから』という海獣医師、勝俣悦子氏のことばです。諦めそうになったその先で差がつくと普段から思っているから、響いたのかもしれません。

 また、『結果が出なくなったときには、今まで思い続けてきたことを、どれだけ思い続けられるかが大事です』ということばは、品格を失ったら、それはもう仕事ではないのではないかと疑問に思うことの多いわたしに『思い続けてきたこと』を思い出させてくれました。このことばを発した祖母井 (うばがい) 秀隆氏は、サッカークラブでジェネラル・マネージャーを務めながら、プレーに表れる選手たちの「人となり」が与える感動を観客は望んでいると考えていました。そして、チーム成績が振るわなかったある時期、いわくつきの選手を獲得するかどうか迷っていました。その選手は、フランスでは知らぬ者のいないトップクラスでしたが、以前移籍を打診した際に、陰で別のクラブとも交渉し、天秤にかけていたひとです。結果的に交渉を打ち切った祖母井氏は、組織の居住まいを正したのです。

 そして、石橋を叩いて割ってしまい渡れなくなると揶揄されたわたしは、左官の挟土 (はさど) 秀平氏のことば『臆病な奴が勇気を出すからいいんです。臆病な奴が勇気を出してチャレンジするから、成功するんです』ということばにも励まされました。
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2021年09月29日

「完訳 ナンセンスの絵本」

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エドワード・リア (Edward Lear) 著
柳瀬 尚紀 訳
岩波書店 出版

 巻末の解説によると、この本には A BOOK OF NONSENSE (1861 年版) の全訳と MORE NONSENSE, PICTURES, RHYMES, BOTANY, ETC. (1871 年版) のなかの ONE HUNDRED NONSENSE PICTURES AND RHYMES の全訳が収められています。

 いずれもリメリック (limerick)、a-a-b-b-a と韻を踏む 5 行の戯 (ざ) れ歌です。(日本語のほうも同じ形式で 2 音以上韻を踏むと決めて訳されたようです。) リメリックは英詩にしか見られないそうですが、その詩形の生まれと名称の由来は、はっきりしないとか。ただ、エドワード・リア自身は、リメリックということばをどこにも用いず、そもそもリメリックという語を知らなかったようだと説明されています。

 何の知識ももたずに読み始め、韻を踏むためにかなり頻繁に地名が使われていると思いながら読み終えて解説に進み、わたしの推測は誤りだったかもしれないと思いました。生涯独身だったエドワード・リアは『この世で全くの独りぽっちであるなら、たえず移動することだ。ニューヨークへでも、パラグアイへでも行かざるをえない』と手紙に記していたとおりの旅人だったようです。そのせいで地名がここまで多いのかもしれません。

 その地名については、翻訳家が訳した際、あるルールを設けたようです。解説に『原詩のほとんどは地名を二度繰返して韻を踏んでいるが、訳詩で同じことをするのは安直の感がある。翻訳では地名を繰返さない』と決めて訳したそうです。なんとも、自らハードルを上げられたわけです。そのほか、リアの造語に対する解釈やその日本語訳の解説など、翻訳家による解説は、詩を味わう前に読むことをお勧めしたい内容でした。

 印象に残る詩がいくつかありましたが、一番気に入ったのはこれです。

おろかおばちゃん登った柊 (ひいらぎ)
そこでしばしの心のやすらぎ
ところが刺先 (とげさき)
ドレスを引っ裂き (ひっさき)
暗い心が悲しくゆらぎ

There was an Old Lady whose folly,
Induced her to sit in a holly;
Whereon by a thorn,
Her dress being torn,
She quickly became melancholy.

 このおろかおばちゃんが自分に重なり、気持ちが吸い寄せられました。次は、オノマトペが楽しく感じられ、音やリズムを楽しむリメリックの良さが特に感じられたものです。

娘のお帽子もうむちゃくちゃ
鳥たちとまってもうもみくちゃ
ところが娘は「いいともいいとも
飛んでる鳥さんみんな友
帽子にとまってもらわなくちゃ!」

There was a Young Lady whose bonnet,
Came untied when the birds sate upon it;
But she said, 'I don't care!
All the birds in the air
Are welcome to sit on my bonnet!'

 次は、小さいことを気に病むわたし向けの詩です。

良心痛んで胸ちくちく
探し当てたぞケイパーソースのこの備蓄
巷に言うに「一混ぜ (ひとまぜ) ひんやり赤ワイン
それをごくごく毎日愛飲
胸のちくちく必ず放逐」

There was an Old Man whose remorse,
Induced him to drink Caper Sauce;
For they said, 'If mixed up,
With some cold claret-cup,
It will certainly soothe your remorse!

 ケイパーソースについて少し調べてみましたが、ある料理関連ブログで、おもしろい記事を見つけました。広く知られている、バターベースの『ケイパーソース』とは別に、バターを使わず、ケッパー、玉ねぎ、ピーマン、ニンニク、ワインビネガー、アップルビネガー、オリーブオイル、(砂糖) などを使った『ケッパーソース』があるそうです。『ラヴィコットソース』(フランス語の ravigoter の元気づけるから来ている) と呼ばれるソースとレシピが似ていることから、時間が過ぎるうちに呼び名が変わったのだと推測されます。元気づけてくれるワイン風味のソース、どんなものか一度よばれてみたいです。

 小さいことを気に病むだけでなく、理不尽なことを延々言われても、拒絶どころか溜息もつけないことの多いわたしに溜飲が下がる思いをさせてくれたのがこれです。

おっさん駅でながなが演説
何のかのと長広舌 (ちょうこうぜつ)
「もう遮る!
長すぎる
おまえさんなど断固拒絶!」

There was an Old Man at a Station,
Who made a promiscuous oration;
But they said, 'Take some snuff! ――
You have talk'd quite enough
You afflicting Old Man at a Station!'

 意味と音で日英ともに面白みを醸している詩がほかにもあり、それらを味わうなかで、この翻訳家の粘りを感じずにいられませんでした。こういうスタイルの詩もあると知り、楽しむことができたのは、こうして日本語で紹介くれる方のおかげです。感謝したいと思います。
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