
Jeffery Deaver 著
Simon & Schuster, Inc. 出版
真相解明のプロセスでは、楽しめた部分とそうでもなかった部分の両方がありました。楽しめた部分は、犯人を追う側の主人公 Lincoln Rhyme が科学知識や経験をもとに些細な手がかりから犯人の意図を見抜き、行動を予測していくプロセスです。
Coffin Dancer と呼ばれる殺し屋は、何年も犯行を重ねてきたにもかかわらず、警察はその本名も年齢も掴めずにいました。Coffin Dancer の最大の武器は、deception (欺き) です。相手を欺き、捜査を攪乱することによって、自らの足跡を消し去り、次の行動予測を不能にして、逃げ切ってきました。
その殺し屋を追うのが Lincoln と彼の部下 Amelia Sachs です。Lincoln Rhyme には身体障害があり、事件現場に自ら赴くことができません。彼の代わりに証拠を見つけ、Lincoln の分析を助けるのが Amelia です。個性的なこのコンビは、Coffin Dancer が仕掛ける巧妙な罠に立ち向かっていきます。
追う者がまんまと騙されたり、追われる者が真意を見抜かれたりといった攻防が続き、距離が徐々に縮まるプロセスは、読み応えがありました。Lincoln は、超能力者と見まがうほどの予見力を有するため、現実味に欠ける場面もあるものの、なかばファンタジーとして楽しめました。
そのいっぽうで、大詰めに明かされる、いくつかのどんでん返しのなかには、それは余計だったのではないかと思うものもありました。意外な結末にインパクトがあるのは確かですが、あからさまなミスリードに少し落胆しました。
ただ、そういった不満はあっても、2 日ほどの緊迫した追跡劇は全体的におもしろいと思います。周到な伏線、緻密な分析、捜査機関内部の駆け引き、最後に明かされる意外な黒幕など、楽しめる要素が揃っていた気がします。とりわけ、個性的な登場人物、灰汁の強い犯罪学者 Lincoln と独立心旺盛な Amelia の関係性、法廷の証人として保護された被害者遺族 Percey Clay と Lincoln との関係性など、人物描写としても興味深い場面が多くありました。結末では、恋愛感情が思った以上に色濃くあらわれ、犯罪だけでなく、ひとの感情の謎も解かれた気がします。