2010年11月04日

「Winter Frost」

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R.D. Wingfield 著
Transworld Publishers 出版

 「Hard Frost」の続編で、シリーズ5作目です。5作も読むと、このシリーズがなぜ好きなのか、さすがに自分でもわかってきました。

 ひとつは、警察という組織のなかでそれなりに窮屈で自由な日々を送っている主人公フロストに共感できるからです。たとえば、職場でフロストが板挟みになっている状態には無理なく感情移入できます。上司マレットは、部下の安全より自分の出世のほうが大事だと思っていることを隠そうともせずコスト削減を厳しく要求してきますが、フロスト自身は部下の行動にも責任を持とうと頑張っているあたり、自分の身と重ね合わせながら、応援したくなります。しかしその一方でフロストは、事務処理がからきしだめだったり、時も場所も選ばない品の悪い冗談を次々と口にしたり、身だしなみに気を配らなかったりと、社会人としてどうかと思うようなところは、笑えるだけでなくわたしもここまで気楽にやってみたいと少しばかり羨ましい気分になったりもします。

 もうひとつは、複数の事件がてんでばらばらに進行しているように見えつつどこかで一部が交わりあったりしながら、なかには呆気なく解決するものもあったり、七転八倒の苦しみの末に解決するものもあったり、フロストの冴えた推理のおかげで解決するものもあったり、フロストが越えてはいけない一線を越えて無理やり解決するものもあったり、ひとつひとつ違った様相を見せながらも目にした事件がすべて終結していくさまが好きなのだと思います。

 それで今作なのですが、相棒がいつもとは少し違います。どちらかといえばフロストを慕っているのですが、いつか取り返しのつかないことをしでかすという不安を感じさせるタイプで、爆弾を抱えているようなハラハラ感が味わえました。

 事件の解決に関していえば、あっさりと解決するものとどこまでも運に見放されてしまうものの落差が前作以上に大きくなった気がします。フロストは刑事としての立場が危うくなるところまで追いつめられてしまうのですが、誰もを責めるでもなく冷静にフェアに振る舞っていて、またまた共感してしまいました。

 ハズレのないシリーズです。
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2010年05月21日

「Hard Frost」

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R.D. Wingfield 著
Bantam 出版

 「Night Frost」の続編。アラン警部補がほかの署に応援に行くことになったため、主人公のジャックは休暇中にも関わらず、殺人事件を担当させられてしまいます。(見事なくらい毎回不運に見舞われるのが、ジャックです。)

 このシリーズは4作読んだことになりますが、毎回アラン警部補の名前は頻繁に登場するものの、本人が捜査しているシーンなどはまったくありません。捜査に直接関係のないちょっとした会話どまりです。ここまで徹底して表に出てこないと、逆に興味が湧いてしまいます。ちなみに、アラン警部補はジャックとは違って上からの評価が高く、とてもきれい好きで、論理的な人物として描かれています。

 さて、本題のジャックですが、今回は内部でも外部でも今まで以上に手ごわい相手と向かい合うことになります。

 内部の手ごわい相手は、4年ほど前まで同じデントン署で働いていたジム・キャシディ。人手不足のため一時的に昇格され、警部補として古巣のデントン署に応援にきたのですが、ジャックとは最悪の雰囲気で接しています。実は4年前、キャシディの娘が車に轢き逃げされたとき、ジャックが事件を担当したのですが、犯人を捕まえられなかったのです。捜査に手抜きをしたとかたく信じているキャシディは、ことあるごとにジャックに当たり、娘の事件の話を持ち出します。しかし、この轢き逃げ事件には意外な事実が隠されていて、結末あたりで暴露されてしまいます。

 一方、外部のほうの手ごわい相手は、恐ろしく完璧に証拠を拭い去る精神力をもつ誘拐犯人です。証拠を見つけられるものなら見つけてみろといわんばかりの挑戦的な態度でいどんできます。しかし、ジャックの粘りと勘で、思わぬ展開になります。しかし、今回もジャックは越えてはならない一線を越えてしまい証拠を捏造してしまいます。ただ、それまでの長い持久戦でじりじりと追い詰めるさまを読むうちに、ジャックのしたことを肯定しそうになってしまうから、不思議です。

 この巻で特別考えさせられたのは、ジャックの優しさは相手にとっても本当の優しさなのか、ということです。たとえば、この巻では、強盗や恐喝の常習者も殺されます。加害者は、被害者から悪質な脅迫を受け、暴行を受けそうになり殺してしまったのですが、その脅迫内容を供述調書から抹消したいと代理の弁護人がジャックに頼みにきます。担当はキャシディなので、供述調書を書き直すなんてことは絶対許してもらえそうにありません。でも、ジャックはなんとかしてあげると弁護士に約束します。

 規則をまげて、その加害者の秘密が世間に公表されないようにしてあげるのは、ジャックの優しさだと思います。実際、事件に深く関わっていない人たちが知る必要もない秘密を守ってあげたことは、脅迫者に追い込まれて犯罪を犯してしまった加害者たちを救ったことは間違いなく、傷つく人がでてくるとも思えません。でも、キャシディの娘の轢き逃げ事件の真相を隠したジャックの優しさは、だれも救っていないかもしれないという疑問がわたしにはあるのです。

 このシリーズでは、人と人が接していくうえでの本質的な問題を考えさせられることが多々あり、それが私がこのシリーズに惹かれる理由のひとつになっています。
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2010年03月26日

「Night Frost」

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R.D. Wingfield 著
Crimeline 出版

 デントン署は今回も人手不足。原因は猛威をふるうインフルエンザ。誰もが通常の二倍働くなか、フロストと新しいつかの間の相棒ギルモアはさらにその上をいき、例によって寝る間もなく働き通しです。しかも、今回の相棒ギルモアは前作二作とは違い、既婚者。前作のようにいいムードになった女性との逢瀬をフロストの容赦ない指示で邪魔されるのとは違い、妻に愛想をつかされ、家出されてしまいます。

 そして、仕事のほうはといえば、二ヶ月も行方不明だった15歳の少女が死体で発見された殺人事件、脅迫状を送りつけられたうえ家を燃やされてしまった夫婦の放火殺人事件、年金暮らしのお年寄りばかりが狙われる連続殺人事件、他人の秘密を手紙で書き送る脅迫事件と、人手不足もお構いなしに次から次へと事件が起こります。

 個人的には、前作の「Touch of Frost」に比べると見劣りがした気がします。ひとつは、前作のほうが伏線の張られ方が巧みでミステリとして読み応えがあったと感じたことです。もうひとつは、前作では少しは論理性も備え、そこそこの推理を披露してくれたフロストが、今回は勘だけに頼り、越えてはいけない一線を越えてしまったことに共感できなかったことです。実際の現場では、一線を越えるところまで追い詰められるのかもしれませんが、そこはエンタテイメントのなかのことなので、やはりフィクションとして前作のように頑張って欲しかった気がします。

 そうはいってもやはり、よれよれでスケベなおじさんキャラのフロストが放つ強烈な個性といい、これだけの事件を収束させる手際といい、よくできたシリーズだと思います。次「Hard Frost」も楽しみです。
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2009年11月18日

「Getting Off Track: How Government Actions and Interventions Caused, Prolonged, and Worsened the Financial Crisis」

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John B. Taylor 著
Hoover Institution Press 出版

 日々の経済ニュースでまめに取り上げられる政策金利ですが、その適正水準を計算するモデルにテーラー・ルールというのがあります。その発見者が、この本の著者、ジョン・B・テーラーです。

 著者は、今回米国で端を発した金融危機は、この政策金利がテーラー・ルールから乖離し過ぎていたことが原因だったと述べています。あまりに低い政策金利が続いたために住宅バブルが大きく膨らみ、はじけたときの打撃も大きくなったと主張しています。(住宅バブルが大きく膨らんでいた時点では、政策金利もかなり上昇していましたが、著者は2002年から2004年の間の金利を問題視しています。)

 好況のときはこれが長く続いて欲しいと願い、テーラー・ルールから離れてしまったのかもしれないと、素人ながらに考えてしまいました。でも、その好況が大きかった分、次にきた不況も大きくなったということなら、一般消費者に過ぎないわたしとしては、テーラー・ルールに執着し、小さな好況不況の波を繰り返してくれるほうがありがたいと思ってしまいました。ただ、好況時における大量の資金流入があってはじめて成り立つ大事業や大改革を必要とする立場の人たちは、波がなさ過ぎると困るのかもしれませんが。

 今回の金融危機はこうして政策金利の失策により起こったと著者は主張していますが、失策はそれだけではなかったと言います。金融危機が表面化したあとの米国政府の計画性や透明性のなさが、この危機を長引かせたというのです。具体的は、大量の不良債権が見込まれるようになった時期の不良資産救済プログラム(TARP)の発表が不適切だったということです。リーマンの破綻で市場が混乱し、その対処が求められるなか、どのような不良資産は救済されるのかの「ものさし」が提示されなかったのは、市場の混乱をさらに拡大する結果になったと言います。実際、リーマンは助けられず、AIGは助けられたことに、「ものさし」の不透明さを感じた人は多かったようです。著者は、どのような対処が施されるかが明示されれば、将来への不安はおさまり人々は冷静に対応できると言います。実際、詳細なく不良資産救済プログラム(TARP)の実施のみが表明されたあと、金融市場の信用収縮が見られました。そして、きちんとした詳細が発表された時点では信用収縮に改善が見られました。この件は、ひとりの国民としての漠たる将来への不安を考えるときも、同じように感じるので、とても納得できる意見でした。

 著者の考えが正しいかどうかを判断する力はありませんが、ひとつの見方として、とても参考になりました。

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2009年11月10日

「A Touch of Frost」

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R.D. Wingfield 著
Sphere Books 出版

 「Frost at Christmas」の続編です。相変わらず、主人公ジャック・フロストの個性が光っていました。

 今回、不運にもフロストの相棒になってしまったのは、ウェブスター。失態で降格になり、フロストのいる署に異動になり、相棒になります。前作の相棒同様、ろくに眠らせてもらえず、ペーパーワークを押し付けられて辟易するウェブスターは、以前はフロストと同じポジションにいただけに、フロストに従う立場にうんざりしている様子。しかし、それが最後の最後に、フロストに一目置くようになります。それが、ウェブスターがフロストに対し、Sirと呼ぶひと言にあらわされていました。そのひと言と同じ重みで、フロストの人柄が滲んでいました。

 そこにたどり着くまで、殺人、連続レイプ、強盗、家出とありとあらゆる事件が起こります。しかも、警察流(?)の事件の重み付けで、担当が変わったり受ける圧力が変わったり、ややこしい出来事を経て、それぞれが並行して進展します。それぞれの事件は別々に見えて実は相互に関係していたり、その逆だったり。関連性を推測するという楽しみは、ひとつの事件だけを追うミステリとは違った味わいがあり、今回も楽しめました。

 しかも、今回はかなりフロストの心情に入り込んでしまう部分がありました。フロストは懇願されて躊躇いながらも、同僚の事件に踏み込みます。しかし、待っていたのは苦い結末。しかも、実はフロストが事件の全容を見抜いていたことが明らかにされ、さらに苦悩の色が見えてきます。もちろん、わたしの仕事に人の生死は関わってきませんが、こういうことってあるんだよな、といった共感を感じてしまいました。

 このシリーズは、謎解きとフロストのキャラクターというバランスのよい二本立ての楽しみのほかに、小さな共感の種が埋まっているところが気に入っています。
posted by 作楽 at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする