2009年10月30日

「As Simple as Snow」

20091030[AsSimpleAsSnow].jpg

Gregory Galloway 著
Berkley Trade 出版

 ある女子高生が失踪し、彼女のボーイフレンドがその謎を解こうとした軌跡が描かれた作品。

 いろいろ不思議な感じがする作品で、とても印象に残りました。失踪した女子高生アンナは、ボーイフレンドが通っていた学校に転校してきます。そして、それからすぐ、1500人ほどもいる街の住人ひとりひとりの死亡告知記事を書き始めます。そして、ひとり残らず書き終わったとき、アンナは行方不明になります。その間、7ヶ月ほどの間に、アンナは語り手であるボーイフレンドと付き合い始め、語り手はアンナのさまざまな面を知ります。アンナの失踪後、語り手は思い出を手繰りながら、アンナの行方を知ろうとします。

 高校生という一番若さがあふれている年代のアンナが、人間の一生を死亡告知記事に凝縮させるという作業をこつこつ続けていくのは不思議な感じがします。アンナは、死にこそ人のドラマがあるといい、まだ生きている人の死を想像して書きます。

 また、アンナは古い音楽や文学が好きで、生まれた時代を間違えたといいます。米国で人気のあったフィーディーニーという奇術師がいました。彼は、母親を亡くしたあとも母親と話したいと切望し、霊媒師を訪れます。しかし、友人のアーサー・コナン・ドイルは霊媒師は手品師のようなものだと種明かしをします。それを聞いたフィーディーニーは落胆し、妻とのあいだにふたりだけの暗号を決めます。似非霊媒師に騙されないように。アンナは、それと同じ暗号をボーイフレンドとの間に決めようといいます。ふたりだけの暗号。死んだあとも交信するための暗号。それがタイトルの"As Simple as Snow"です。そんな逸話を知っているだけでなく、実際に暗号を決めようとするのは、不思議な感じがします。

 しかし、失踪にしろ、事件や事故に巻き込まれたうえの死にしろ、アンナがその暗号を使うことはありませんでした。

 この本はもともと大人向けに書かれたものらしいですが、実際はティーンエイジャーに人気が出たそうです。同世代でこういう子がいたら、という憧れのようなものを感じて、若い世代に人気がでたのかもしれません。ミステリアスなアンナに最後まで引っ張られました。
posted by 作楽 at 00:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月04日

「The Kid: A True Story」

20090804[TheKid].jpg

Kevin Lewis 著
Michael Joseph Ltd 出版

 タイトルにあるように実話です。子供のころ虐待を受けていた著者がいわゆる普通の暮らしを手に入れるまでを綴ったものです。

 著者の母親は精神薄弱で父親はてんかんを患っていたようです。そのため収入がなく、行政から支給される児童手当に頼っていました。著者の虐待がとうとう明るみに出て、行政の介入により家族と別に暮らすことになったとき、母親は彼の分の児童手当がもうもらえなくなると言い放ちます。それを聞いた子供のころの著者を思うと胸がしめつけられます。

 そこまでの思いをして虐待を逃れ家を離れたにも関わらず、著者はチャンスを最大限活用することができず、さらなる回り道をします。このあたりは、日本では高校生くらいにあたるので、もう少し頭を働かせて頑張るべきではなかったのかと思う場面もあります。

 世の中で本になる実話では、特別な才能に恵まれた人たちや自分ではありえないような凄まじい努力をした人たちばかりが登場する気がします。しかし、この本では、ごく普通の少年が劣悪な環境で育てばこうなるのかも、と思うようなことが次々と起こります。そのどれも誉められたことではないでしょう。子供自身の頑張りがもっとあれば、普通の暮らしはもっと身近だったのかもしれません。でも、もし自分が同じ立場だったとしたら、どの程度頑張れたか疑問です。そう思うと、虐待という問題を見過ごしていけないと感じました。

 日本でも児童虐待が増えている状況を考えると、この問題特有の難しさを知るいい機会でした。
posted by 作楽 at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月29日

「Family Businesses: The Essentials」

20090729[FamilyBusinessesTheEssentials].jpg

Peter Leach 著
Profile Books Ltd 出版

 家族経営独特の問題を扱った本です。家族経営といえば、体系だてて経営を学ぶより、我が家流が重んじられる印象があります。それはこの本の著者の出身地でもあるイギリスでも似たような状況だったようです。一方、アメリカでは、その分野での研究や実践が進んでいました。それを知った著者は、イギリスにもそれらを導入し、その内容がこの本にも反映されています。

 家族経営の場合、経営における優先順位が一般の株式上場企業などとは異なるケースが多いと思います。たとえば、大きな利益を上げることよりも、長く存続し家族が代々生計を立てられることを優先するなどです。なので、やはり家族経営独特の問題を取り上げ、ベストプラクティスとされることを知るのは有益なことだと思いました。

 わたしは、経営に関わった経験もなければ、知識もないのですが、この本を読んでなるほどと思ったことが何点かありました。

 ひとつは世代交代です。まず創業者から次の世代への交代。さらに、その次の世代への交代があります。前者の場合、自分があっての会社という創業者の自負があるだけに、計画を立て円滑に承継する難しさがあります。後者の場合、創業者から見ると孫の世代にあたり、姻族も含めると家族と呼ばれる範囲が一挙に広がり、意思決定権の範囲や出資範囲などについて取り決めが必要になります。この本では具体的に考慮しなければならない点がひとつひとつ挙げられています。

 もうひとつは外部支援の活用方法です。やはり、ある程度会社規模を大きくするにあたっては、外部の力を有効に活用する必要があります。その際の注意点も述べられています。

 日本の企業数全体から見たとき、家族経営を基盤とする中小企業あるいは零細企業が数の上では一番多いと思います。しかし、今は大手企業でさえ存続が難しい時代になっています。こういう理論を積極的に取り入れ、少しでも安定した経営を目指すことは大切なような気がします。
posted by 作楽 at 00:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月08日

「The Return of Depression Economics and the Crisis of 2008」

20090508[TheReturnOfDepressionEconomicsAndTheCrisisOf2008].jpg

Paul Krugman 著
W. W. Norton 出版

 著者のポール・クルーグマン氏は、2008年のノーベル経済学賞の受賞者です。とはいえ、飛びぬけて秀でた人の書いたものは、わたしのような凡人にもわかりやすいです。経済のいろはも知らずとも、簡単な身近な例を挙げて、誰にでもわかるように説明されています。

 クルーグマン氏は、昨年のリーマン・ブラザーズ破綻からどんどん悪化している状況は、1990年代の日本のバブル崩壊と同じ道筋を辿る危険をはらんでいるといいます。

 では、1990年代の日本はどういう状態だったのかというと、グロース・リセッションにあり、流動性の罠に陥っていたというのです。

 グロース・リセッションというのは、経済成長(グロース)しているのに、不景気(リセッション)という、やや珍しい状況のようです。経済成長はGDPを指針としているのですが、たしかに日本の場合、1980年代に比べると落ちていましたが、バブル崩壊後もマイナス成長が続くといったほどではありませんでした。でも、不景気に感じていたのは、実際はもっと経済拡大しているのに、GDPがそこまでに至らず、設備や人が余っている状態になっていたからと説明されていました。なるほど。

 流動性の罠というのは、金融緩和を実施しても、効果がなくなる状態に陥っているということだそうです。景気が悪くなると、金利を下げ、融資による設備投資などに期待します。しかし、金利が低くなっても、景気がよくなるとは限りません。結局は、設備投資が収益拡大に向かい、人々が賃金から消費しなければ、全体としての景気感は変わりません。日本の場合、先行き不安が強いためか、消費に結びつきませんでした。しかも、債権でも持っていても現金で持っていても同じようなものですから、タンス貯金になってしまいました。クルーグマン氏は、そういう流動性の罠に陥った状況は、インフレにならなければ脱出できないといいます。つまり、今持っている現金が目減りするなら、使ってしまおう、という方向に人々が動かないと景気は良くならないそうです。

 個人的には、インフレになってまで景気が上向くことが大切なのかが、よくわかりませんでした。(もともと、あまり景気に影響されない生活をしているのかもしれません。)

 著者は、日本のバブル崩壊後の状況に陥らないためには、すべきことは二点あるといいます。ひとつは、以前と同じだけ銀行が融資業務を行なえるよう、銀行に資本を注入すること。もうひとつは、公共事業などを大規模に実施し、景気刺激対策を怠らないこと。前者は、世界各国が足並みを揃える必要があるといいます。ここ二十年くらいのグローバル化により、国境を越えて流れていた資金が従来どおりに動く必要があるというのです。

 この本の数字を見ていると、頭がくらくらしてきました。たとえば、米国の銀行には2兆ドルくらいの資金を投入するのは当然であり、融資が正常化しなければ、正常化するまで資本を入れる必要があると書かれています。

 これが、現実の話ではなく、学問で終わる話ならいいのに、と思ってしまいました。わたしは、今までどおり、のほほんと生活していけるのでしょうか。
posted by 作楽 at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月18日

「The Tavern in the Morning」

20090218[TavernInTheMorning].jpg

Alys Clare 著
Hodder & Stoughton 出版

 英国歴史小説。一応ミステリというかたちになっていますが、犯人探しの途中で起こるロマンスのほうが主の印象を受けました。

 12世紀、ケント州にある宿屋で、ひとりの男が死んでいるのが発見されます。前夜に宿屋で食べたものが原因だと噂されます。宿屋のパイに疑いの目が向けられるなか、その宿屋の主人と親交のあるJosse d'Acquinという、Richard I世に仕える騎士が調べ出します。その相談役になるのが大修道院長であるHelewise。このふたりが、いわばミステリの探偵役として物語が進みます。

 Josseは、宿屋でパイを食べて死んだ男は、実はほかの男に出される予定だったパイを食べて死んだのではないかと推理します。その「ほかの男」を探している途中、突然襲われ、頭を怪我します。そこを助けてくれたのが、Ninianという少年とその母親であるJoanna de Leon。この親子は、本来パイを食べて死ぬはずだった男と繋がりがあり、身を隠していました。さきほど書いた「ロマンス」とうのは、このJoannaとJosseのあいだのことです。

 毒を盛ったのは誰か、という犯人探しよりも、このJoannaの生き方のほうに目が行ってしまいました。ある男の罠に落ち、翻弄されながらも潔く生きる姿は人に力を与える強さがあります。また、その彼女を支えようとするJosseを見ると、やはりロマンスを前面に出したほうがいい作品ではないかと思いました。(ハッピーエンドではないので、ロマンスに分類できないのでしょうか。)

 全体的にもう少しテンポよく展開してもいいかも、という不満を感じないでもないですが、伏線も多く簡単に読むのを挫折してしまうほどの単調さではないと思います。わたしは、英国の歴史小説を読む機会が少ないので、興味深く読めました。
posted by 作楽 at 00:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする