2021年09月17日

「金融読本 第 31 版」

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島村 嘉/中島 真志 著
東洋経済新報社 出版

 初版が出版された 1950 年から、70 年にわたって改訂されつつ読み継がれてきたことに納得できる内容でした。金融業務、金融市場、金融機関、金融政策など基本的分野を俯瞰できるだけでなく、デリバティブや証券化といった比較的新しい金融手法やフィンテック・仮想通貨 (ブロックチェーン) といったテクノロジー関連の話題も盛り込まれています。また、過去の変遷を振り返る『補論』というセクションがあり、知らなかった経緯を理解したことにより、現状に納得できた部分もありました。

 体系的に金融について学んだことがないので、この本を読むことにより、自らの視野の内と外を知ることができたのは有益でした。こういう本を一冊読んでから、必要な分野のみ深掘りするといった勉強をすれば良かったと、今更ながら自らの手際の悪さに気づけました。

 わたしはこれまで、政府・政策にかかわるものに縁がなかったように思います。たとえば、量的緩和で問題になるマネーストック (マネーサプライ) が次のように分類されているなどと思いもしませんでした。

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 それぞれ、次のように定義されています。

M1……最も容易に決済手段として用いることができる現金通貨と預金通貨とから構成されており、最も狭義の指標となります。

M3……M1 に準通貨 (定期性預金) と CD (譲渡性預金) を加えた、より広義の指標となっています (M1 と M3 は、いずれも全金融機関を対象としています)。

M2……M3 と金融商品の対象は同じですが、金融機関の範囲が限定されています (集計に時間を要するゆうちょ銀行と系統金融機関の預貯金が除かれています)。

広義流動性……M3 に比較的流動性が高い金融商品 (国債、外債、金銭の信託、投資信託、金融債など) を加えた最広義の指標です。金融商品を幅広く集計しているため、金融商品間のシフト (預金から投資信託へなど) の影響を受けにくいという特徴があります。

 日本銀行の Web サイトでは、最新の情報を見られるようになっていて、マネーストックが積みあがっていることを確認できます。

 また、通貨供給量だけでなく、貸出ファシリティ (中央銀行が金融機関からの申込みに応じて、あらかじめ決められた金利で受動的に貸付を行なう機能) と預金ファシリティ (中央銀行が金融機関からあらかじめ決められた金利で受動的に預金の受入れを行なう機能) を使って、その範囲内でのみ市場金利が動くよう誘導していることも初めて知りました。

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 仕事柄、法規制にばかり目が行っていましたが、全体に目を配ることも大切に思えました。
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2021年07月22日

「Adaptive Markets 適応的市場仮説」

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アンドリュー・W. ロー (Andrew W. Lo) 著
望月 衛/千葉 敏生 訳
東洋経済新報社 出版

 この本では、『適応的市場 (adaptive markets) 仮説』が『効率的市場仮説』よりも優れた仮説だと、さまざまな観点から説明されています。『効率的市場』とは、『合理的で利益の最大化を目指す者多数が活発に競争し合い、それぞれ個別証券の将来における市場価値を予測しようと努めており、重要な最新の情報はすべての参加者がほぼ制約なく入手できる市場……効率的な市場では、競争によって、平均では本質的価値に対する新しい情報の影響が実際の価格にすべて「即座に」反映される市場』を指します。

 ただ、金融市場が効率的市場だと考えると理屈に合わないこともあるため、著者は、金融市場が生物学の法則で動いているという理論で効率的市場仮説に対抗しています。金融市場を動かす人間もまた、ほかの生物と同じように繁殖の成功と失敗、もっといえば生と死という直接的な力を受け、行動を司る脳が形作られてきました。その結果、環境がそれまでと変わったとき、脳がその環境にすぐには適応できず、それまでと同じ行動をとってしまいます。ひとことで言えば不適応な行動をとってしまい、非合理的に見えます。

 金融市場を適応的市場だとする仮説では、金融以外の環境で培われたヒューリスティックス (経験則) をそのまま金融の環境に (誤って) 適応したものにすぎないと考えます。そうすると、非合理的な行動、行動バイアスの生じる仕組みが理解できるようになり、行動バイアスの生じやすいタイミングや行動バイアスが市場の挙動におよぼす効果を予測することができることになります。

 さらにいえば、そういった予測のうえに戦略を立てることもできます。たとえば、株式市場で短期的なヴォラティリティが (市場参加者が動揺するような) 閾値を超えて上昇した際は、パニック売りを想定して、ポートフォリオの一部を現金化し、逆にヴォラティリティが元に戻ったときにはポートフォリオも戻すといったアルゴリズムが考えられます。著者は、時価総額加重平均インデックスを使い、取引コストが取引量の 0.05% と仮定して検証しています。結果は、高めの取引コストにも関わらず、このアルゴリズムによりリターンが向上することが見てとれます。

 このように、生物学的観点から市場参加者を分析するいっぽう、著者は、金融市場そのものの進化にも触れています。まず、人類の個体数が非常に大きくなったため、利用者が大幅に増えたのに併せて金融機関数も増え、起きる問題も巨大化しました。さらに、金融システムが複雑化し、密結合 (システムが適切に機能するためには、構成要素がそれぞれ欠陥なく機能することを要する状態) になっていると分析しています。

 そのうえで著者は、生態系を管理するように金融市場をコントロール (適切に規制) する方法を模索しています。それについては、この本に書かれていることすら完全に消化できなかったわたしなどではこの先の展望をイメージできませんし、この仮説に対するこれからの評価を待ちたいと思います。

 ただひとつ言えることは、著者がこの本の最後に記した、金融システムを使えば世界を良くする道筋を見つけられるという考えが、わたしの金融に対する印象を大きく変えました。600 ページも読むなかで冗長だと思った部分もありましたが、少なくともわたしにとっては読む価値のある一冊でした。
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2020年02月22日

「お金の流れで読む日本と世界の未来」

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ジム・ロジャーズ (Jim Rogers) 著
大野 和基 訳
PHP研究所 出版

 ジム・ロジャーズへのインタビュー内容を書籍にしたものです。投資するほどの資金を持っていないくせに、ジム・ロジャーズが語った内容を書籍にすると大概売れると評判なので、つい気になってしまい読みました。

 投資とは関連性の薄いみっつの話題が気になりました。ひとつめは、韓国語のチェボル (chaebol:財閥) という単語が英語でそのまま通用するということです。日本語の keiretsu が英語で通用するのと似ています。

 ふたつめは、総人口に占める子供 (0〜14歳) の比率が 30% 以下、高齢者 (65歳以上) が 15% 以下のとき、経済が飛躍的に成長する、『機会の窓』が開くという考えです。日本の場合、1965 年から 1995 年がその時期にあたり、イギリスの場合 1980 年、ドイツの場合 1990 年に窓が閉じたそうです。経済は人口構成次第だと、あらためて思い知らされました。

 みっつめは、フィンテックによる世界発の銀行『ITF』が香港に本店を構えたそうです。IT 業界に身を置いているので、『ITF』がどんなサービスを打ち出してくるのか興味が湧きました。

 最後に投資関連の話題をひとつだけ。いま国債を購入するのにふさわしい国はロシアだけだそうです。
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2019年12月26日

「目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】」

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中野 剛志 著
ベストセラーズ 出版

 にわかには信じがたい理論が披露されていますが、素人判断ながら理論的に破綻しているようには見えませんでした。

 著者はまず『合成の誤謬』という概念を紹介しています。これは、ミクロ (個々の企業や個人) の視点では正しい行動も、その行動を集計したマクロ (経済全体) の世界では、反対の結果をもたらしてしまうようなことを指しています。

 デフレ下で支出を切り詰めて楽になろうとしたら、それがさらなる需要縮小を招き、デフレが続いて、生活がますます苦しくなるデフレも『合成の誤謬』のひとつだということです。

 言い換えれば、赤字の垂れ流しを止めるのは個々の家計では正しいのですが、財政赤字を削減しようとすることは負の結果を招くということです。でも、日本国債を発行し続けるような状況でいいのでしょうか。それに対し著者はこう語っています。
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財政赤字の制約となるのは、民間部門の貯蓄ではない (財政赤字は、それと同額の民間貯蓄を創出するから)。
財政赤字の制約となるのは、政府の返済能力でもない (政府には、通貨発行権があるから)。
財政赤字の制約を決めるのは、インフレ率である。インフレになり過ぎたら、財政赤字を拡大してはいけない。
財政赤字を無限に拡大できない理由は、そんなことをすると、ハイパーインフレになってしまうからである。
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 こう言われると、通貨とは何かがわからなくなります。著者は、信用貨幣論によれば、貨幣には現金貨幣と預金貨幣があり、後者の場合、預金が先にあって、貸出しが行なわれるのではなく、貸出しが先にあって、預金が生まれる、つまり、国債発行によって預金が増えて貨幣供給量が拡大し、それが需要の拡大を意味するというのです。

 しかし、肝心なことは、一般大衆のマインドではないでしょうか。そういう理屈を国民の多くが理解しなければ、この理論の正しさを試すことは叶わないような気がしました。
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2018年09月22日

「経済ってそういうことだったのか会議」

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佐藤 雅彦/竹中 平蔵 著
日本経済新聞社 出版

『経済』ということばを日常的に耳にしているわりに理解していなかったと知ることができました。

 たとえば通貨 (主権)。当たり前すぎて考えたこともありませんでしたが、日本は国内どこでも通貨は円です。つまり、沖縄も東京も同じ通貨を使い、金融政策も同一です。もし、沖縄の景気がとても悪く東京の景気がとても良かったとしても、それぞれ異なる金融政策をとることはできません。(景気の良い東京では引き締め、景気の悪い沖縄では緩めるといったことは不可能です。)

 そうなるとどうなるか。この本では、景気の悪いほうから景気の良いほうへ、人のほうが動くと説明されています。東京一極集中状態を見る限り、その説明は正しいように見えます。

 そう考えると同一通貨の範囲は、インパクトの大きい問題だということになります。たとえば香港が中国に返還されたとき、通貨は米ドルにペッグした香港ドルを維持しました。また、イギリスは、EU に加盟してもポンドを使い続けました。『通貨主権』について考えたこともなかっただけに当たり前だと思っていたことへ至った決断があったことに今更気づきました。

 さらにこの本では日本の通貨、円が国際化する (円で国外での取引が可能となる) ことによって、為替リスクを負わずに済むというメリットが生まれるいっぽうで、日本銀行のコントロールが及ばなくなるデメリットがあると説明しています。日本と関係のある国や地域で円のマーケットができると、そこでの需要と供給で自由に取引が行なわれて円の金利が決まり、日銀が国内の通貨量を増減させることによって金利を調整しようとしても、最終的には外からの影響を受けて円の金利が決まってしまい、通貨主権が結果的に放棄されてしまうわけです。

 仮想通貨が加わったこれからの時代、通貨はどうなっていくのでしょうか。経済をテーマにしたこの本のなかで、それが一番気になりました。
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