イングランド銀行 著
村井 章子 訳
すばる舎 出版
この本は、イングランド銀行のエコノミスト、ルパル・パテル (Rupal Patel) とジャック・ミーニング (Jack Meaning) が書いたものですが、書いた理由は、暮らしをよりよいものにできる経済学を理解できていないひとが多いのは問題だと思ったからだそうです。
わたしも、経済学が自身にどうかかわるのか、まったく理解していませんでした。興味をもったきっかけは、行動経済学です。ひとは、合理的に行動するとは限らないという研究結果に心底納得でき、経済学の入門書を読むようになりました。
この本のなかにも、心底納得できた考え方が、いくつかありました。ひとつは、ノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク大学のマイケル・スペンスの理論、『教育そのものが限界生産力ひいては賃金を押し上げるわけではない』というものです。『教育というものは誰に高い価値があって誰がそうでないかを雇用者に伝えるシグナルの役を果たすに過ぎない』というのです。つまり、『最も有能な学生の好成績は高度な教育を反映しているのではなくて、もともと知能が高かったことを表して』いるわけです。
ほかにも、景気が下り坂であることを示す最も正確な短期的指標のひとつは「R 指数」(『ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙で「景気後退 (recession)」という言葉が使われた記事の数』)だという事実にも納得できました。著者は、R 指数の精度の高さに対し、『危機というものが自己実現的な性格を備えていることの表れかもしれない。大勢の人が心配し始め、景気について話したり書いたりするほど、景気は悪くなっていく』と書いています。不安というものは、客観的かつ合理的な根拠で完全に払拭できるものではない気がします。だから、一般消費者の心理が景気に影響を与えるのではないでしょうか。つまり、わたしたちは、気づかずに景気を左右しているのかもしれません。
一般消費者がどう反応するか、わたしがいま気になっているのは、通貨です。この本のなかでも解説されていますが、わたしたちが『お金』と考えるものは、一般的に銀行券ですが、それ以外にも通貨には準備預金と預金通貨があります。預金通貨とは、銀行の口座残高に記載されて作られる通貨で、銀行が住宅ローンを貸し出したときなどに創造されます。この本によれば、預金通貨は、通貨供給量の 79%、一般のひとが使う通貨の 96% を占めるそうです。国でも、中央銀行でもない、民間の銀行が創造した通貨をわたしたちは信用して暮らしているわけです。ただ、そのことを自覚していないひとも多いと思います。わたしも経済入門書を読むまで知りませんでした。
ただ、わたしはテクノロジーには興味があって、CBDC (中央銀行デジタル通貨) にも関心があります。著者がそれに対し、『現時点ではわからない』といっているので、少しわくわくしました。現在わたしたちは、民間銀行が創造した通貨を使っていますが、CBDC が導入されれば、国家が直接裏付ける通貨を使うことになります。そのとき、もし国民に選択肢が与えられれば、国民はどちらを選ぶのでしょうか。民間銀行は、どうなるのでしょうか。デジタル通貨を扱うプラットフォームはどのように構築されるのでしょうか。
いろいろ考えると、もっと経済について知りたくなります。そして、この本は、平易なことばで身近なことがわかりやすく、ユーモアを交えて説明されていて、経済を学ぶ入口として優れていると思いました。

