2026年09月05日

「金融化する世界 資本主義の構造変化と現代企業行動の本質」

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小倉 将志郎 著
日経 BP/日本経済新聞出版 出版

 タイトルにある『金融化』を著者は、『資本主義の下で、広義の金融が、経済・社会に対して直接・間接に有する影響・役割が、徐々に高まっていくプロセス』だと説明しています。ただ、タイトルの『世界』に、日本は含まれていません。おもに米国を指しているようです。

 著者は、いかに広範囲にわたって金融化が進んでいるかを表にまとめています。政府の金融化については、これまで考えたことはありませんでしたが、金融工学の発展など、金融の深化では目を瞠る変化がありましたし、企業の金融化についても実感があります。

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 たとえば、FRB 統計をもとに著者が作成した以下のグラフを見れば、米国の金融部門の伸びは、一目瞭然です。日本語でいうリーマンショックの前後を除いて、税引前純利益は右肩あがりで伸びています。全産業に占める割合は、ピーク時には 30% を超えていました。

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 著者は、企業が『利潤追求において、財・サービスの生産というコストと時間のかかるプロセスをスキップし、広義の金融的経路を通じて、金融市場の原理に突き動かされて、利潤追求を行おう』としてきたと指摘しています。たとえば、製造業が製造ラインの建設などに投資して収益を拡大するのではなく、金融部門を通じて収益をあげる方向に進んできたということでしょう。ほんの一例ですが、リーマンショック前の 2006 年時点で、主要企業の総収益に占める金融部門の貢献度は、GE で 33.3%、フォードでは 10.5%、GM で 16.5% だったそうです。

 しかし、これだけ金融化が進んだ背景には、以下のように権力の中心に大手金融機関が鎮座していられるよう、結果的に政府が協力したことが影響していると見られます。たとえば、TBTF 政策 (経済への影響が大きすぎる企業の破綻を政府が防ぐ政策) のおかげで、大手金融機関は、税金の投入を想定し、高リスクの商品を扱ってきたのではないかという憶測が飛び交ったこともありました。

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 この本の最後には、この金融化の流れが縮小することはなく、ある程度制御されて金融化が進むか、極端に金融化が進むか、どちらかだろうと、著者の考えがまとめられています。そんな流れのなか、日本が得られる利益は、相対的に減少していくことになるのでしょう。そのいっぽうで、米国と同様に、リーマンショックのような金融危機の影響を受けることは経験済みです。辛い現実を突きつけられた気分です。
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2026年05月16日

「ザイム真理教 ー それは信者 8000 万人の巨大カルト ー」

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森永 卓郎 著
フォレスト出版 出版

 タイトルの『ザイム』は、財務省や彼らが掲げる財政均衡主義という教義を指し、『真理教』は、財務省がカルト集団として機能していることを皮肉っています。財務省に入省したひとは誰しも、漏れなく洗脳されて『日本の財政は破綻状態』だと信じこみ、消費税をどんどん引きあげることが正義だと唱え、その教義を国民にあまねく広めていると、著者は主張しています。その結果、8000 万人もの国民が財務省の教義を信じてしまっているというのが、サブタイトルの内容です。

 著者の主張がすべて正しいとは思いません。ただ、素人の目から見ても、そのとおりだと頷かざるを得ない点が数多くありました。ひとつは、『政府の借金をグロスでみるのではなく、資産を差し引いたネットでみるべき』という意見です。債務超過になりながら、売却可能な資産を維持し続けて、増税するのは不適切に見えます。著者は、都心の一等地にあって、安価な家賃で貸し出されている公務員宿舎などは売却すべきと主張しています。

 高い家賃に苦しんでいるから、苦言を呈しているわけではなさそうです。著者によれば、『2021 年末現在で、発行済みの日本国債の 14.7%、175 兆円は海外投資家が保有している』そうで、『世界で最低水準の金利しかつかない日本国債を海外投資家が買うはずがない』とのことです。そもそも、日本国債の金利自体が、財政破綻と結びつくような水準にはないと思います。

 もうひとつは、財務省が推進する優遇措置です。たとえば、金融所得課税が富裕層に有利に働いていることは間違いありません。『勤労収入には、そのまま累進課税の所得税がかかるが、株式の売却益や配当から得られる金融所得は、分離課税になっていて、一律 20.315% (所得税及び復興特別所得税 15.315%、住民税 5%) を支払えば、すべての納税が済んでしまう』のです。

 いずれにせよ、そんな財務省には歯向かうような国会議員を選んでこなかったのは、わたしたち国民です。富裕層を横目に見ながら、絞りとられるまま税金を納めてきたのも、わたしたちです。官僚がわたしたち日本人を不幸にしていると、カレル・ヴァン ウォルフレンが書いたのは、30 年以上も昔のことでした。この著者が懸命に伝えようとしたことも、おそらく目に見える結果を生まないのでしょう。わたし自身も、どう行動を起こせばいいのか、これまでの長い人生で学んでこなかった気がします。
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2025年08月11日

「イングランド銀行公式 経済がよくわかる 10 章」

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イングランド銀行 著
村井 章子 訳
すばる舎 出版

 この本は、イングランド銀行のエコノミスト、ルパル・パテル (Rupal Patel) とジャック・ミーニング (Jack Meaning) が書いたものですが、書いた理由は、暮らしをよりよいものにできる経済学を理解できていないひとが多いのは問題だと思ったからだそうです。

 わたしも、経済学が自身にどうかかわるのか、まったく理解していませんでした。興味をもったきっかけは、行動経済学です。ひとは、合理的に行動するとは限らないという研究結果に心底納得でき、経済学の入門書を読むようになりました。

 この本のなかにも、心底納得できた考え方が、いくつかありました。ひとつは、ノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク大学のマイケル・スペンスの理論、『教育そのものが限界生産力ひいては賃金を押し上げるわけではない』というものです。『教育というものは誰に高い価値があって誰がそうでないかを雇用者に伝えるシグナルの役を果たすに過ぎない』というのです。つまり、『最も有能な学生の好成績は高度な教育を反映しているのではなくて、もともと知能が高かったことを表して』いるわけです。

 ほかにも、景気が下り坂であることを示す最も正確な短期的指標のひとつは「R 指数」(『ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙で「景気後退 (recession)」という言葉が使われた記事の数』)だという事実にも納得できました。著者は、R 指数の精度の高さに対し、『危機というものが自己実現的な性格を備えていることの表れかもしれない。大勢の人が心配し始め、景気について話したり書いたりするほど、景気は悪くなっていく』と書いています。不安というものは、客観的かつ合理的な根拠で完全に払拭できるものではない気がします。だから、一般消費者の心理が景気に影響を与えるのではないでしょうか。つまり、わたしたちは、気づかずに景気を左右しているのかもしれません。

 一般消費者がどう反応するか、わたしがいま気になっているのは、通貨です。この本のなかでも解説されていますが、わたしたちが『お金』と考えるものは、一般的に銀行券ですが、それ以外にも通貨には準備預金と預金通貨があります。預金通貨とは、銀行の口座残高に記載されて作られる通貨で、銀行が住宅ローンを貸し出したときなどに創造されます。この本によれば、預金通貨は、通貨供給量の 79%、一般のひとが使う通貨の 96% を占めるそうです。国でも、中央銀行でもない、民間の銀行が創造した通貨をわたしたちは信用して暮らしているわけです。ただ、そのことを自覚していないひとも多いと思います。わたしも経済入門書を読むまで知りませんでした。

 ただ、わたしはテクノロジーには興味があって、CBDC (中央銀行デジタル通貨) にも関心があります。著者がそれに対し、『現時点ではわからない』といっているので、少しわくわくしました。現在わたしたちは、民間銀行が創造した通貨を使っていますが、CBDC が導入されれば、国家が直接裏付ける通貨を使うことになります。そのとき、もし国民に選択肢が与えられれば、国民はどちらを選ぶのでしょうか。民間銀行は、どうなるのでしょうか。デジタル通貨を扱うプラットフォームはどのように構築されるのでしょうか。

 いろいろ考えると、もっと経済について知りたくなります。そして、この本は、平易なことばで身近なことがわかりやすく、ユーモアを交えて説明されていて、経済を学ぶ入口として優れていると思いました。
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2025年07月24日

「60 歳からの知っておくべき経済学」

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橋 洋一 著
扶桑社 出版

 共感できましたし、難しいことがわかりやすく説明されているとも思いました。前者については、たとえば、『持ち家は賃貸よりもリスクが高いから』、土地などの『資産もないのに、なぜわざわざ高いお金を出してまで家をもとうとするのか』と、著者が問うている点などに頷いてしまいました。また、官僚が国民の利益のためではなく自らの仕事を大きく見せるために働いていると感じているあたりも、頷けました。

 たとえば、消費が伸びないとき、減税すれば経済効果が期待できると思われても、滅多に減税されません。その理由は、減税よりも、手間がかかって政策コストの嵩む補助金のほうが財務省の好みに合うからだと著者はいいます。『補助金は税を集めて配るため、官僚、とりわけ財務官僚の存在感が大きくなる』いっぽう、『減税は税を集めないため、官僚からすると中抜きされるかたちになる』というわけです。著者は、減税と補助金の割合につき、『先進各国での各種政策における補助金と減税の比率を調べてみた』そうで、その結果、日本以外の先進国の補助金割合は 5 割以下で、日本は 8 割だったと明かしています。

 著者のわかりやすい説明のなかで印象に残っているのは、マンデル=フレミングモデルです。これは、財政政策だけでは、経済効果は望めないと証明したものです。

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 縦軸が金利、横軸が GDP になっている上のチャートに出てくる「MP 曲線」の MP は「金融政策 (Monetary Policy)」で、経済が過熱するとインフレが起こり、その抑制のために金利が上がるために右上がりの線になっています。「BP 曲線」の BP は、「国際収支統計 (Balance of Payments)」で、国際収支が均衡している状態の国民所得と利子率の組み合わせを示します。世界の金利に国内の金利が収束するため、ほぼ水平になります。「IS 曲線」の IS は「投資 (Investiment) と貯蓄 (Saving)」で、金利が高いほど投資が減って GDP が縮小するため、右下がりの線になっています。これら 3 つの線が交わる点の下がそのときの GDP、左が金利になります。(1) 財政政策のみ実施した場合、(2) 金融政策のみ実施した場合、(3) 両方実施した場合が説明されていました。

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 財政政策を実施すると、投資が増えた結果、IS 曲線が少し右にずれ、MP 曲線との交点が右上の@に移動します。すると、GDP が上昇すると同時に金利も上昇します。金利の上昇は、円高を招き、輸出産業が影響を受け、投資が減少して、IS 曲線が左にずれ、Aまで戻ってしまいます。つまり、財政政策だけでは、GDP は増えません。

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 次に金融政策のみ実施した場合、金利が下げられて MP 曲線が右にずれ、交点が@に移動後、投資が増えて IS 曲線が右にずれるため、下げた金利が上がってしまい、交点がAまで動きますが、GDP の上昇は残ります。

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 金融政策と財政政策を組み合わせて実施した場合、まず金融政策を実施するので、上記同様、交点がAまで動きます。その後、財政政策も実施されると、投資が増えて IS 曲線が右にずれて交点がBまで動きます。この図の例では、さらにそこで金融政策を実施して金利を下げ、さらに MP 曲線が右にずれ、交点がCまで移動することになります。

 たとえば、金利が上昇すると投資の抑制につながるなどの一般論と、この図さえあれば、経済効果に対する、金融政策と財政政策の影響度合いが理解できます。この本のタイトル、60 歳以上という年齢にかかわらず、すべての国民が知っておくべき知識だと思います。なぜ、このようなタイトルになっているかわかりませんが、良書だと思います。
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2025年03月29日

「コンサルタントが毎日見ている経済データ30」

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小宮 一慶 著
日経BP 日本経済新聞出版 出版

 わたしにとっては、学ぶ点が多い本でした。まず、巻末に『主な経済指標一覧』が掲載されていて、とても便利です。次に、長年日経電子版を購読しながら、便利な『経済指標ダッシュボード』を知らずにいたので、その存在を知るきっかけになりました。最後に、著者の説明がわかりやすく、世の中の流れを推測できる見方を学ぶことができました。

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 上記の『主な経済指標一覧』は、全部で 58 です。日本と米国の指標が多いのは当然ですが、意外だったのは、中国の指標が少なかったことです。内訳は、日本 41、米国 14、ヨーロッパ 2、中国 1 です。中国で唯一選ばれたのは、中国・国家統計局発表の消費者物価指数です。

 著者の解説で印象深かった点は、4 点あります。ひとつは、なんといっても、マネタリーベースです。『異次元緩和』といわれながら、どのくらい異次元なのか、わたしは全然理解できていませんでした。ここには、『日銀が大量に国債を購入する「黒田バズーカ」は 3 度実施され、マネタリーベースは 10 年で約 5 倍の水準に達しました。日銀当座預金残高は、異次元緩和スタート当時は約 60 兆円でしたが、約 570 兆円 (2024 年 4 月 25 日時点) まで増加。マネタリーベースは約 700 兆円 (同) まで膨らみました。このような異常な状態になるまで、政府はまさに日銀を "使い切った" のです』と書かれてあります。

 次は、日本の国力の低下に関する著者の解説です。『有事の円買い』といわれた円も、いまやその立場を失ったようです。『規模は異なりますが、2009 年 10 月に起こったギリシャ危機では 1 ドル=80 円前後まで円高が進みました。ところが、シリコンバレーバンクに端を発した米国の金融危機の兆しが見えたときは、円高は 1 ドル=130 円台までしか進みませんでした。これが、2009 年から 2023 年の 14 年間における日本経済の実力の低下だと私は懸念しています。円安の理由は、ひとえに日本の国力が落ちた結果だといえるでしょう』と、書かれてあります。この先、まだまだ円安は進みそうです。

 3 番目は、貯蓄率です。米国の貯蓄率は、新型コロナのパンデミック時は、30% 前後と高い数字を記録しましたが、ポストコロナといわれる時期になると、3%〜4% で推移しています。わたしは、もう少し高いと思っていたので、意外でしたが、驚いたのは日本の貯蓄率です。米国が 30% 前後だった時期でも 10% 前後で、ポストコロナでは、0% 前後です。理由は、貯蓄を取り崩して暮らしている高齢者の割合が増え、勤労世帯の貯蓄と相殺されて、0% 前後になるようです。

 最後は、景気の先行きを知りたいときは、不要不急の消費を見るべきだという助言です。具体的には、『旅行取扱状況』や『全国百貨店売上高』などです。言われてみるとそのとおりなのですが、先行きに不安を感じると、旅行や非日常的な支出がまず減らされます。どういったデータをどう見ればいいのか、参考になりました。
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