2009年03月11日

本の索引

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 本の出版が近い知人がぼやいていました。巻末の索引に手間取っているそうです。最後の最後の工程で、ほんの少し行がずれて、索引のページが正しくないところが大量に出てきてしまったそうです。そのとき、初めて知りました。索引は作品の一部だから、著者が用意するのだそうです。(事典などは特殊なので、編集者が全面的に協力してくれるそうなのですが。)だから、編集者が手を入れてくれたほんの数行がページのずれを生んでも、自分が索引をチェックしなおさないといけない、と愚痴りたくもなるのは、わかる気がします。

 でも、本を利用する立場のわたしからすると、索引はとても大切なものです。あるとないのでは、天と地ほども違うと思っています。たとえば、わたしが持っている本では、「Scholastic Dictionary of Idioms」という英語の熟語の語源などが載っている本は、索引がよくできていて、英語の熟語を目にすると気軽に手に取って見ます。一方、同じような毛色の本なのですが、索引がないので、もう必要ないかな、と思っているのが、「のぞき見トムとハットトリック」です。一度通して読んだあと、ふたたびリファレンスとして活躍するかどうかの分かれ目が索引にあるのではないかと思います。

 そう思っていたら、索引のことが「本の手帳」という雑誌に載っていました。何よりも驚いたのは、索引はこんなにも奥が深いのだということ。

 たとえば、索引に関する書籍だけでもかなりありそうです。「本の手帳」を見ているだけで、「國書の索引」「さくいん」「索引」「索引の話」「索引の考察」「索引作成者の認知とテキスト構造との関連から見た索引作成過程」「索引 作成の理論と実際」などです。

 これだけの考察を可能とする索引作成作業において、索引にすることばの抽出が一番難しそうです。次に、抽出したことばが記載されている箇所をどこまで索引ページに加えるかなのでしょう。

 これは、逆の立場、つまり読者のことを考えてくれている著者にとっては、自然なことではないでしょうか。読者にとって一番の問題は、索引に掲載されていて欲しいと思うものが掲載されていることだと思います。あることの説明が載っていたという記憶はあっても、そのページがわからない、という使い方がわたしの場合は一番多いように思うからです。しかし、読者が記載されていて欲しいものを断定するのは不可能です。読者は不特定多数ですから。

 しかし、難しいから安易に済ませる、というのではなく、わたしの知人のようにぼやきながらも最後まで正確を期すよう努力する姿勢は、読者にとって喜ばしいものです。通読したあともリファレンスとして使える余地のある実用書にとって、その本が活かされるか活かされないかは索引で決まるくらいの重さがあると思うからです。

 ちなみに、「本の手帳」の記事の題名は、「編集者から見た索引編集」です。執筆は、飛鳥勝幸氏。『「これは惜しいな・・・・・・」「時間がなかったのかなぁ・・・・・・」とつぶやきながら、索引のない本をボーッと眺めることがある。』そう書き始められています。この「惜しい」という気持ちは本当によくわかります。でも、「惜しい」と思うだけでなく、その先を考えるチャンスをくれたのはこの記事でした。

○○出典○○

『本の手帳』創刊2号
出版社:小学館
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2008年06月19日

「魅惑の蔵書票」特集

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 クリスマス・プレゼントのエントリで書いた「A Visit to TEDDY BEARS」は、今でも時々開きたくなる豆本のひとつです。エッチングで描かれたくまが何ともほのぼのとしていて、心が和むのです。それでも、サイズがサイズですし、銅版で表現できる細かさに限界はあるような印象を持っていました。たぶん、くまの輪郭のちょっとごつごつした感じなどを勝手にエッチングの限界と思ってしまったのでしょう。本当は、巧みに、滑らかさを避け、くまの柔らかとはいえない毛並みを表現していたのでしょう。

 そんな風に、私の銅版の限界に対する印象を変えてしまったのは、「本の手帳」(第3号)の「魅惑の蔵書票」特集です。エッチングの魅力に惹かれてしまいました。

 蔵書票というのは、日本ではあまり知られていないものだと思うのですが、"Ex libris"(「蔵書」という意味をもつラテン語)の記載があり、持ち主(個人でも団体でも)が書かれているもので、本に貼られるものです。本に貼るという使い道のため、サイズはあまり大きくありません。でも、その小さなスペースに精巧なエッチング作品が収まっている蔵書票のオンパレードです。

 作家によって、テーマというか雰囲気がかなり違うのですが、私がこの雑誌の中で最も気に入ったのは、戸村茂樹氏の作品。モノクロの景色を見ていても、なぜか冷たい風が通り過ぎる夕暮れ時のイメージが、私の中で膨らんできたりするのです。柔らかな赤みがかった夕焼けを吹き抜ける風。ある瞬間を切り取っているから、木々の葉が揺れているわけでもないのに、なぜか風までも感じてしまうのです。

 こういう記事を見ると、自分なりの本のコレクションを持ち、凝った蔵書票を貼ってみたいという気持ちになります。実際には、コレクションを置くスペースさえ持てないのですが。

 この「本の手帳」という雑誌は、残念ながら一般的には流通していません。でも、本好きの私にとっては垂涎ものの記事が時々掲載される、気になる雑誌のひとつです。

posted by 作楽 at 00:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 本に関する雑誌の記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月12日

「グレート・ギャッツビー」はココがすごい!

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雑誌名:翻訳事典
号: 2008年度版
出版社:アルク
文: 上岡 伸雄

 村上春樹氏が訳した「グレート・ギャッツビー」と野崎孝氏が訳した「グレート・ギャッツビー」を両方読んでみた私にとっては、興味が湧く記事でした。

 A4サイズの雑誌の表紙に、わりと大き目のタイトルが載っているものの、実際の記事は4ページと短いものです。原文と村上春樹氏の訳文を並べ、野崎孝氏の訳を交えながら、村上氏の翻訳を評価していています。

 内容の密度という観点からは、たった4ページの中に、以下にある3点が見つかったので、私にとっては参考になる記事でした。

1. デイジーのイメージ
2. 翻訳のその時代での価値
3. 原文への忠実度

 1番め。デイジーのイメージが村上氏訳と野崎氏訳では違ってきているのは、やはり誰でも感じることなのだと、最初に思いました。「デイジーが魅力的になったと感じられるのは、何といってもその科白の訳し方による」と上岡氏は書かれています。村上氏訳では、デイジーがおっとりとお嬢様然としながらも、それなりに気苦労もあり、その寂しげな部分も含めて魅力的に映る女性の話し方になっていると思っていたので、納得でした。

 2番め。上岡氏は、野崎氏の翻訳を絶賛した上で、こう書かれています。「とはいえ、どんな名訳でも古びてくるのはどうしようもない。特に会話については、読者の日常話す言葉とどうしてもズレが生じてくる。」日常の私たちの話ことばが変わっていく以上、そのギャップは広がっていくということだと思います。翻訳された時代においては、リアリティを感じた会話も、時代を経ると違和感を感じるようになってしまう、ということなのでしょう。この点については、私はうまく消化できませんでした。たとえば、明治時代の日本文学を読んでいて、その会話が現代と大きく差異があっても、その時代の雰囲気を感じるという点において、それはそれでリアリティを感じていると私は思います。それが、翻訳になると、その時代の雰囲気を伝えるセリフではなく、古びたセリフになってしまうのは、なぜなんでしょう。疑問に残る点でした。

 3番め。上岡氏が村上氏の特徴のひとつめに挙げているのが、原文への忠実さ。「村上訳の特徴として、まず原文に正確・忠実であろうとしていることが挙げられる」と述べています。この記事のように原文と訳文の対応する部分が抜粋されていると、それは納得ができます。原文は比喩などが多いので、原文に忠実になれば、原文の豊かな表現というか描写が生きてくるのだと思います。原文で、デイジーが娘に触れる場面で、"as if feeling its lovely shape,"とある部分を、村上氏は「まるでその愛らしいかたちを味わうかのように」と訳しています。"feel"を「味わう」とすることによって、"lovely shape"をそのまま「愛らしいかたち」と訳せるんだなぁ、と勉強になりました。きっと、このように細やかにことばを操り、原文から離れず、全体が訳されているとすれば、すごいことだと思いました。記事のタイトル通りになってしまいますが。

 私も一度、原文と訳文を照らし合わせながら、なにか読んでみたいと思います。この記事にあるような発見を自分でできると楽しいのではないでしょうか。自分の英語力なども考えると、最初は児童書がいいかもしれません。「SO B. IT」は好きな本なので、一度訳を照らし合わせてみたいと思います。
posted by 作楽 at 00:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 本に関する雑誌の記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする