
織江 耕太郎 著
書肆侃侃房 出版
タイトルにある『百年』は、家系における 4 世代という期間や林業が『百年』産業と言われることに関係しています。轍は、軌跡と言い換えることができます。
その 4 世代は、矢島家、岩城家、鬼塚家といった家族を中心に描かれます。矢島家の 3 世代目にあたる矢島健介は、父親の矢島裕一の通夜で見知らぬ人たちと会ったことをきっかけに、自分のルーツを知りたいと思い、新聞記者としてのフットワークをもって過去を調べ始めます。
その過程で、第二次世界大戦や林業の衰退といった社会環境だけでなく、自分たちの家族に降りかかった問題と、それがこれまで受け継がれてきた事実を知ります。そして物語自体は、矢島健介の息子、周平の世代で終わります。
物語の最初のワンシーンは、100 年以上も前に伝統木造構法で建てられたある旧家の解体から始まります。そして、最後に同じシーンに戻ってきたとき、その解体は、さまざまな解体の象徴のように読めました
床柱のある伝統木造構法、妻たちが陰で家長を支える家系、意にそわずとも命を賭して戦わなければならない状況が生んだ過ちなど、すべての終焉に見えました。わたしたちがこの百年間で失ったものと得たものそれぞれを思い起こさせるような物語でした。