
穂波 了 著
KADOKAWA 出版
期待したものが欠けていて、物語のなかに入りこめませんでした。たとえば、アームストロングが月面に降り立ったというのは捏造だという設定です。長年とりざたされてきた話題ですし、それに反論する説も数多く公表されています。それなのに、その隠蔽が『ディープフェイク』のひとことで片づけられていたのは、もの足りなく感じました。たしかに、ディープラーニングの歴史と重なってはいますが、半世紀以上も隠蔽できるものなのでしょうか。
また、アメリカという大国の隠蔽工作の中心に日本人がいるという設定も、その理由がアームストロングと足のサイズが同じというのも、都合のよすぎる設定に思えます。さらには、個人の事情に同情し、国を裏切る宇宙飛行士の存在も違和感を感じます。大それた行動を起こすひとの動機がなんとなくしっくりきません。
全体的に、わたしにとってリアリティが感じられない内容でした。物語の舞台が宇宙という壮大な空間にあるわりには、登場人物の小競り合いが卑近で、しっくりと馴染まない気がするのかもしれません。ひとの心のうちにある小さな葛藤を描く場が宇宙である必要はないように思えます。宇宙に行くリスクや覚悟、宇宙開発に必要とされる資金やテクノロジーなど、当然のことばかりで、新鮮味がなかったのも残念でした。