2020年06月01日

「時空の神宝」

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苗場 翔 著

 Amazon で購入できるプリント・オン・デマンド (POD) です。

 ファンタジーを読みなれていないということもありますが、わたしは、この物語に入りこめませんでした。登場人物の描写が説明的過ぎて、それぞれの表情や発言から個性を読みといたり先の行動を想像したりといった楽しみが感じられませんでした。すべてにおいてわかりやすさが求められる時代とはいえ、ストレート過ぎる人たちばかりが登場する小説は、味気なく感じます。

 そのいっぽうで、ストーリーはおもしろいと思いました。現代にいたはずの主人公が一瞬にして 0946 年に移動してしまい、その理由もわからないまま、その地で時空のかけら 12 片を集め『時空の宝玉』なるものを作りだそうとします。

 そうして時空のかけらを集めていくうち、スマートフォンに表示されている 0946 年というのは実は、10946 年だとわかります。946 年だと思って読んでいたときには違和感なく受け入れることができた風景が、実は未来だったという事実に驚かされます。

 人物や風景の描写が良ければ、ストーリーももっと活きたのではないでしょうか。
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2020年03月31日

「7番街の殺人」

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赤川 次郎 著
新潮社 出版

 子供のころに赤川次郎作品を頻繁に読んでいた時期があり、懐かしさから文庫になったばかりの本作品を読んでみました。

 数十年の時を経ても、赤川次郎作品らしい安定感と雰囲気は変わらず、安心して読めました。表紙を開いてから閉じるまでの 3 時間ほどのあいだ、次々と人が死に、主人公の女の子が安全ながらも大変な状況に置かれているにもかかわらず、なぜか全体的に拍子抜けする程ふんわりのんびりした空気が漂い、ちょっと間の抜けたボーイフレンド未満が頑張り、ハッピーエンドを迎えるという赤川次郎作品の定番中の定番路線を楽しめました。

 ただ、時代を感じさせられたところもありました。タイトルになっている 7 番街というのは団地の 7 号棟のことで、その団地は住む人もほとんどなく高齢者だけが残っているという限界集落のような設定になっていました。

 今回の赤川次郎作品を読んであらためて思ったのは、時代の流れに合わせて変わる部分はあっても、ちょっとリラックスしたい時間に別世界を楽しむという読書の期待を裏切られたことはないということでした。そういう意味では、すごい作家なのだと思います。
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2020年01月31日

「酸素は鏡に映らない」

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上遠野 浩平 著
講談社 出版

 窓付きの装丁が気に入って購入した本です。中身に対する印象は、独特な世界観のなかに入りこめず、消化不良を起こしてしまった感じでした。

 それでシリーズの途中から読んだのかもしれないと調べてみると「ブギーポップ」というライトノベルシリーズを読んでおくべきだったようです。このシリーズ全体を流れるテーマが何かはわかりませんでしたが、この本のテーマはタイトルにある『酸素』です。

 わたしたち人間にとっての『酸素』の捉え方が、一般的イメージとは少し異なっていました。まるで預言者かのような物言いをする柊という登場人物はこう語っています。
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酸素とは触媒だ。
モノを燃やす……そういう働きをするものだ。生命とは、どんな小さなものであっても、エネルギーを燃焼させて、生きている……だからモノを燃やすモノとしての酸素が必要なのだ。
つまり……酸素とは……危険なものだ。
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 酸素を必要不可欠とするのではなく、危険物としてみなす考えが新鮮でした。そして、この柊と会話を交わしている健輔という少年が、酸素が危険なら毒みたいなものかと問いかけ、そのとおりだと柊は答えます。
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人間は……その成分のほとんどは、毒でできているのと同じだ。
他を取り込み、毒で溶かし、燃やし、己のものに造り変えていくことが、生命の本質――呼吸レベルから、それは身に染みついている……それは、人が人を求めるときでも、同じことが……刺激物が、毒が、つねにそこには存在している……。
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 喩えがわかりやすいかどうかは別として、人の性質として、そういう面もあるように思います。
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2019年11月28日

「敵」

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筒井 康隆 著
新潮社 出版

 語り手でもある主人公は、渡辺儀助 75 歳。妻に先立たれてから 20 年間ひとり暮らしを続け、仕事を退いてからは、基本的に家に籠もる生活をしています。

 毎日の食事や買い物など身の回りの細々としたことがらが延々と続き、およそ変化といったことと無縁な描写が繰り返され、この年代につきものの回想も繰り広げられます。対照的に、将来のことといえば、貯金が底を尽いたときどうするつもりか、遺言によって家を相続した者がどう受けとめるかといったことくらいで、老いるということは限りある空間で死を迎えるときを待っているようなものだと思わずにはいられない展開が続きます。

 そうした孤独のなかにありながら儀助は、周囲に疎んじられることを恐れ、数少ない年下の友人たちに来てくれと声をかけるのを躊躇い、いつ来てくれるのだろうと期待しつつ、だれかが来てくれた状況を毎晩夢想して過ごします。

 そしてとうとう現実と夢想の境がなくなり……。読んでいるほうもフィクションかノンフィクションかわからなくなるほどのリアリティでした。
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2019年11月25日

「黒い紙」

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堂場 瞬一 著
KADOKAWA 出版

 とても大きな箱の蓋を開けたら中にとても小さなものが入っていたとか、美味しそうなジュースを飲んでみたら水っぽかったとか、そういうふうに表現したくなるような作品でした。

 この作品は、34 歳の元警察官長須恭介が企業の危機管理専門の会社で働くようになって 3 か月経ったころ、ある企業に届いた怪文書の事実関係を探る仕事を任されるところから始まります。長須は、公僕である警察官当時に求められたものと、特定の企業のために働く危機管理会社の社員に求められるものの違いに馴染めず、仕事に向き合う姿勢を定めることができません。

 そんな長須が怪文書に書かれた内容の真偽を確かめるとともに怪文書が送りつけられた動機を探り当てます。警察官の視点で動機を見れば理不尽な扱いを受けた者による犯行に見えたかもしれませんし、もちろん登場人物本人にとってはこのうえなく辛かったことでしょう。でも、会社員生活全般で見れば特に珍しいことではないと思います。全体的に、もったいぶって匂わせた割には驚くほどの謎はなかったという出来で、ミステリとしての面白みには欠けると思いました。
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