
今村 夏子 著
文藝春秋 出版
第 161 回の芥川賞を受賞した作家のことが以前から気になっていたので、読んでみました。ファンタジー風とも、不条理劇風とも、受けとれます。物語の基幹を成す『転生』や『拒絶』の印象が強いせいだと思うのですが、正直なところ、どういう位置にある作品と言えばいいのかよくわかりません。
短篇三作品、「木になった亜沙」、「的になった七未」、「ある夜の思い出」のいずれも、主人公は人間以外のものに姿を変えます。「ある夜の思い出」の主人公、真由美にいたっては、人間から猫に姿を変え、交通事故を機にまた人間に戻るという、二度のへんげを見せます。
また各作品では、強い拒絶や願望も描かれています。亜沙は、自らが差し出した食べ物を拒絶され続け、ある日、木になり、割り箸になります。拒絶をもとに自然と強い願望が生まれたようにも見えますが、同調圧力がかかったようにも見えます。
そう考えてみると、学校のいじめ、ゴミ屋敷、結婚をちらつかせて愛人関係を迫る男、引きこもるニートなど、現代の日本社会では決して珍しくはない、さまざまなできごとが散りばめられています。なかには、ゴミ屋敷の住人の価値観や引きこもりたくなるニートの視点など、一般的とは言い難いアングルで現代の社会問題を捉えた描写もあり、ファンタジーというオブラートに包みながら社会問題を描いた作品のようにも見えます。
なんとなく村田沙耶香作品を思わせる雰囲気が感じられました。