
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版編集部 編
毎日新聞社 出版
見開きごとに、@英文記事の抜粋 1 段落、Aその日本語訳、B『表現のツボ』、C『KEYWORD 解説』が掲載されています。『表現のツボ』欄は、文法の復習になりましたし、『KEYWORD 解説』欄では、日本とは異なる諸外国の制度や慣習を学べました。
それぞれ印象に残ったのは、次のような内容です。
『表現のツボ』
(1) every と each
多くの場合交換可能な同義語ですが、every は使えても、each が使えないケースに、大きなグループに属する各々の人、モノを指すとき (例: Every student in our school must follow the rule=わが校の全ての学生はこの規則を守る義務がある)、また『almost/nearly/virtually』に続けるとき (例:Almost every employee got a pay-raise=ほぼ全社員が昇給した) があります。
(2) any と every
例文の『any big climate-change legislation appears unlikely=気候変動に関するいかなる大型法案も成立しない公算が大きいとみられる』をもとに、any と every の違いが説明されています。any の場合は、対象となる法律案がこれまでに示されていないものまで含めて『いかなるものも』との含意がありますが、every だと既に対象となる法律案は全部出揃っていて、その『どれも』が成立しないという意味になります。
(3) the
同じ単語の繰り返しを回避するためにも使われる定冠詞 the は、経済記事において、会社名を繰り返さないよう、所在地名を使って言い換えるときにも使われるそうです。Apple 社なら『the Cupertino, California company』とされるそうです。
(4) to と at
たとえば throw を例に考えると、『throw to』と『throw at』では、かなり意味が違ってきます。前者は、相手がそれを受け取れるように友好的な意図をもち(例:throw a ball to him=彼にボールを投げ渡す)、後者は、相手をそれで打とうとする敵対的な意味になります(例:throw a ball at him=彼にボールを投げ付ける)。
(5) only to不定詞
わたしは、この用法のニュアンスを汲み取れていませんでした。『only to不定詞』は、ある行動をとったところそれが予想外の残念な結果になってしまうことをあらわしているとのことです(例:Some did so last year, only to watch demand increase after the Federl Reserve pumped money into financial markets and pushed interest rates lower=昨年そう判断した投資家もいたが、結局は、米連邦準備制度理事会 (FRB) の金融緩和によって金利が下がり、(ハイイールド債の) 需要は増した)。
(6) to不定詞
to不定詞の行為が完了しているのか未完了なのかは、動詞の種類によって決まるそうです。try や urge (例:He urged the House and Senate to send him an overhaul of the immigration system, raise and expand the earned income tax credit for low-wage workers without children, and raise the federal minimum wage for all eligible workers to $10.00 an hour, up from $7.25.=彼 (大統領) は、移民制度改革や子供のいない低賃金労働者向けの給付付き勤労所得税額控除 (ETIC) の増額・拡大のほか、連邦最低賃金の時給 7.25 ドルから 10 ドルへの引き上げ法案の推進を上下両院に促した) の場合、未完了です。いっぽう、urged の代わりに forced を使うと、『強制的に送らせた』と送る行為が完了している意味になります。
『KEYWORD 解説』
(1) 大統領令 (executive order)
初代大統領の時代から、さまざまな政策で使われている大統領令 (2014 年当時で13,000 ありました) ですが、歴史上違反と判断されたのは、1950 年代 (トルーマン大統領) と 90 年代 (クリントン大統領) にそれぞれ 1 回ずつしかないそうです。
(2) 投資意欲 (animal spirits)
人間の行動心理に基づく経済活動を分析し、理論化したケインズ経済学の用語です。「The General Theory of Employment, Interest and Money (雇用・利子および貨幣の一般理論) の著作のなかで、ケインズが、起業家の投資行動を規定する心理として使った造語だそうです。
(3) 自律的成長 (organic growth)
この organic growth は、企業の成長に関するコメントに登場した単語で、『既に手掛けている事業の売り上げや収益の成長』を意味します。『言い換えれば、会社の「事業という組織」が拡大して「組織的成長」を果たした』ということです。このため、『決算の文脈では、合併や買収 (M&A) 分を除いた既存事業の売上高の前年比や前期比の増加率を「organic growth rate」』と表現します。
(4) 繰り延べ税資産 (deferred tax assets)
繰り延べ『税』資産とは、『企業会計上の費用と税法上の費用 (=損金) の定義が違うため、単年度でみると、ある企業が税金を過大に前払いすることがしばしば生じ』ますが、その支払い過ぎた税金分を貸借対照表の資産の一項目として計上し、費用の性格を持たせ、将来の法人税を減額させる効果を持たせるものです。たとえば、『不良債権を大量処理するため「貸し倒れ引当金=費用」を積んだものの、税務上単年度の引当金の損金算入は限度額が小さいためその分名目利益が大きくなり税金を過大に支払い、』「繰り延べ資産」になるようなケースが考えられます。
(5) ディスインフレ (disinflation)
『「ディスインフレ」とは本来、インフレが金融引き締めによって収束し、物価上昇率が徐々に低下する状態になること』を指しますが、『エコノミストや IMF が警戒する現代的な「ディスインフレ」とは、金融危機後の欧米先進国で物価上昇が小幅にとどまり、いつデフレに陥るかわからないような状況を指します。』驚いたのは、この後者の『「ディスインフレ」を指して「Japanization=日本化現象」と言う人』がいるそうです。
(6) ヘアカット (haircut)
幅広い意味で使われていることに驚いた単語です。『金融用語としての「haircut」の本来の意味は、債券や株式などの証券を融資の担保として差し出す際に、その価格が将来的に下落するリスクをヘッジするために、一定割合を差し引いて融資すること』を指します。しかし、それ以外にも多様な使われ方が見られるそうです。『ギリシャ国家債務問題ではその国債保有者が、価格の数十パーセントを超える分の償還権利を放棄する「債務の棒引き」の意味』で使われたり、『委託投資した資産の運用が不振なためその受け取り利息などが単に「減額」される意味』として用いられたり、『株やオプション、先物などの金融商品が取引される市場では、信用取引で設定される「margin=証拠金」と同義語』として使われる例まであるそうです。
(7) エクスポージャー (exposure)
この exposure は、いつも説明に困る用語です。ここでは、『債券や株への投資、融資などをして将来損失を被るリスクを負う状態』だと説明されています。例としては、『「Bank A has a 20% "exposure" in Country B = A 銀行は B 国に 20% のエクスポージャーを抱える」』があげられています。
(8) 給付付き勤労所得税額控除 (earned income tax credit)
1975 年から米国で導入されている「earned income tax credit (EITC) = 給付付き勤労所得税額控除」は、『ある一定の所得までは税額そのものを控除する低所得者向け社会保障制度です。控除額が所得税額を上回れば、その超過分が米国政府から還付』されます。制度設計として興味深いのは『所得の一定額までは控除額が増えるように設計され、働く意欲を増進させるような工夫』がされている点です。EITC は、『課税最低限以下の低所得者に対し、税額控除できない分が給付される特性』があり、消費税の逆進性対策として有効性が認められているいっぽう、『米国では EITC の過払いが支払総額の 3 割に上るなど制度執行上の問題も指摘』されているそうです。