2025年03月06日

「ペーパーバック読解法 ミステリ-で英語漬け」

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藤田 悟/出口 正喜 著
アルク 出版

 わたしが英語でミステリーを読むきっかけになった本を再読しました。大昔の本ですが、目から鱗とはこういうことだと思ったのを今でも覚えています。日本語の本を読み、もし知らない単語が出てきても、あまり深く考えず、文脈から推測して読み進めるのに、なぜ英語の本を読んだときには、それができずにいたのか、指摘されるまで考えたこともありませんでした。著者は、そのことを気づかせるために『英語のリーディングも誤解をしながら読み続けることで上達する。日本語を読むことだって結局はそうして身につけたのではないか』と書いています。

 そのことばに納得して、このなかのミステリー用語辞典の単語を覚え、ミステリーを英語で読みだしました。この用語辞典は、ほんの数十ページなのですが、homicide (他殺、殺人) や assault (暴行) などの罪名、inspector (警視、警部) や lieutenant (警部補、部長刑事) など警察官の職位、first offense (初犯) や mug shot (<容疑者などの>顔写真) など警察小説に頻出する単語、法廷 (裁判) の基本用語、薬物用語など、ミステリー小説で見かける単語がまとめられていて、重宝します。裁判の原告や被告は、民事の場合、the complainant (原告) と the plaintiff (被告) が多く、刑事事件の場合、the accuser (原告) と the accused (被告) が一般的と、民事と刑事で差があることを知ったのもこの本だったと思います。

 再読して気づいたのは、リーディング力を診断するテストで、初読時よりずっと高いスコアを得られたことです。多少は、単語力があがったかもしれませんが、おそらく前後から単語を推測する力があがったのではないでしょうか。ミステリー本の紹介もあって、次に何を読もうか、迷いながら選んだことも思い出します。さらに、この本を読んでから、語源などを学び、単語の意味を推測することなども覚えました。

 ただ、この手の本を最近はあまり見かけない気がします。インターネットが一般的になって、調べようと思えば簡単に調べられるけれども、ひとところにまとまっていたら便利といった本のニーズが少なくなったのでしょうか。
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2023年02月09日

「読まずにわかる こあら式英語のニュアンス図鑑」

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こあらの学校 著
KADOKAWA 出版

 英語学習者が手元に置いて損はない本だと思います。タイトルに偽りはなく、ニュアンスの違いが簡潔に明示されています。

 名詞、動詞、助動詞、形容詞、副詞、前置詞・接続詞と、品詞別に似た単語を比較しつつ説明されています。たとえば、名詞だと、shop と store の違いや present と gift の違いがわかります。前者の違いは、なんとなくわたしにも理解できていましたが、驚いたのは、後者の違いです。感謝や愛情をこめた個人間の贈り物には present、価値が高いフォーマルな贈り物には gift という単語を使うということです。

 動詞だと、speak、say、talk、tell の違い、look、appear、seem の違い、select、choose、pick の違いなどが説明されています。最初の speak、say、talk、tell のグループの単語を使う際、わたしは、目的語などの構文を気にするばかりで、随分と適当に単語を選んできたのだと思い知った気がします。この本では、次のように論理的に分類されています。

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 ほかにも、いろいろな副詞を随分とぞんざいに選んできたのだと気づかされました。使わない日はないくらい頻繁に使ってきた because が次のような位置づけにあるとは思いもしませんでした。

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 わたしにとっては手にとるのが遅すぎた本ですが、未来ある英語学習者にはお勧めしたいと思います。
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2022年08月08日

「ウォール・ストリート・ジャーナル式 経済英語がよくわかる本」

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ウォール・ストリート・ジャーナル日本版編集部 編
毎日新聞社 出版

 見開きごとに、@英文記事の抜粋 1 段落、Aその日本語訳、B『表現のツボ』、C『KEYWORD 解説』が掲載されています。『表現のツボ』欄は、文法の復習になりましたし、『KEYWORD 解説』欄では、日本とは異なる諸外国の制度や慣習を学べました。

 それぞれ印象に残ったのは、次のような内容です。

『表現のツボ』

(1) every と each

 多くの場合交換可能な同義語ですが、every は使えても、each が使えないケースに、大きなグループに属する各々の人、モノを指すとき (例: Every student in our school must follow the rule=わが校の全ての学生はこの規則を守る義務がある)、また『almost/nearly/virtually』に続けるとき (例:Almost every employee got a pay-raise=ほぼ全社員が昇給した) があります。

(2) any と every

 例文の『any big climate-change legislation appears unlikely=気候変動に関するいかなる大型法案も成立しない公算が大きいとみられる』をもとに、any と every の違いが説明されています。any の場合は、対象となる法律案がこれまでに示されていないものまで含めて『いかなるものも』との含意がありますが、every だと既に対象となる法律案は全部出揃っていて、その『どれも』が成立しないという意味になります。

(3) the

 同じ単語の繰り返しを回避するためにも使われる定冠詞 the は、経済記事において、会社名を繰り返さないよう、所在地名を使って言い換えるときにも使われるそうです。Apple 社なら『the Cupertino, California company』とされるそうです。

(4) to と at

 たとえば throw を例に考えると、『throw to』と『throw at』では、かなり意味が違ってきます。前者は、相手がそれを受け取れるように友好的な意図をもち(例:throw a ball to him=彼にボールを投げ渡す)、後者は、相手をそれで打とうとする敵対的な意味になります(例:throw a ball at him=彼にボールを投げ付ける)。

(5) only to不定詞

 わたしは、この用法のニュアンスを汲み取れていませんでした。『only to不定詞』は、ある行動をとったところそれが予想外の残念な結果になってしまうことをあらわしているとのことです(例:Some did so last year, only to watch demand increase after the Federl Reserve pumped money into financial markets and pushed interest rates lower=昨年そう判断した投資家もいたが、結局は、米連邦準備制度理事会 (FRB) の金融緩和によって金利が下がり、(ハイイールド債の) 需要は増した)。

(6) to不定詞

 to不定詞の行為が完了しているのか未完了なのかは、動詞の種類によって決まるそうです。try や urge (例:He urged the House and Senate to send him an overhaul of the immigration system, raise and expand the earned income tax credit for low-wage workers without children, and raise the federal minimum wage for all eligible workers to $10.00 an hour, up from $7.25.=彼 (大統領) は、移民制度改革や子供のいない低賃金労働者向けの給付付き勤労所得税額控除 (ETIC) の増額・拡大のほか、連邦最低賃金の時給 7.25 ドルから 10 ドルへの引き上げ法案の推進を上下両院に促した) の場合、未完了です。いっぽう、urged の代わりに forced を使うと、『強制的に送らせた』と送る行為が完了している意味になります。

『KEYWORD 解説』

(1) 大統領令 (executive order)

 初代大統領の時代から、さまざまな政策で使われている大統領令 (2014 年当時で13,000 ありました) ですが、歴史上違反と判断されたのは、1950 年代 (トルーマン大統領) と 90 年代 (クリントン大統領) にそれぞれ 1 回ずつしかないそうです。

(2) 投資意欲 (animal spirits)

 人間の行動心理に基づく経済活動を分析し、理論化したケインズ経済学の用語です。「The General Theory of Employment, Interest and Money (雇用・利子および貨幣の一般理論) の著作のなかで、ケインズが、起業家の投資行動を規定する心理として使った造語だそうです。

(3) 自律的成長 (organic growth)

 この organic growth は、企業の成長に関するコメントに登場した単語で、『既に手掛けている事業の売り上げや収益の成長』を意味します。『言い換えれば、会社の「事業という組織」が拡大して「組織的成長」を果たした』ということです。このため、『決算の文脈では、合併や買収 (M&A) 分を除いた既存事業の売上高の前年比や前期比の増加率を「organic growth rate」』と表現します。

(4) 繰り延べ税資産 (deferred tax assets)

 繰り延べ『税』資産とは、『企業会計上の費用と税法上の費用 (=損金) の定義が違うため、単年度でみると、ある企業が税金を過大に前払いすることがしばしば生じ』ますが、その支払い過ぎた税金分を貸借対照表の資産の一項目として計上し、費用の性格を持たせ、将来の法人税を減額させる効果を持たせるものです。たとえば、『不良債権を大量処理するため「貸し倒れ引当金=費用」を積んだものの、税務上単年度の引当金の損金算入は限度額が小さいためその分名目利益が大きくなり税金を過大に支払い、』「繰り延べ資産」になるようなケースが考えられます。

(5) ディスインフレ (disinflation)

『「ディスインフレ」とは本来、インフレが金融引き締めによって収束し、物価上昇率が徐々に低下する状態になること』を指しますが、『エコノミストや IMF が警戒する現代的な「ディスインフレ」とは、金融危機後の欧米先進国で物価上昇が小幅にとどまり、いつデフレに陥るかわからないような状況を指します。』驚いたのは、この後者の『「ディスインフレ」を指して「Japanization=日本化現象」と言う人』がいるそうです。

(6) ヘアカット (haircut)

 幅広い意味で使われていることに驚いた単語です。『金融用語としての「haircut」の本来の意味は、債券や株式などの証券を融資の担保として差し出す際に、その価格が将来的に下落するリスクをヘッジするために、一定割合を差し引いて融資すること』を指します。しかし、それ以外にも多様な使われ方が見られるそうです。『ギリシャ国家債務問題ではその国債保有者が、価格の数十パーセントを超える分の償還権利を放棄する「債務の棒引き」の意味』で使われたり、『委託投資した資産の運用が不振なためその受け取り利息などが単に「減額」される意味』として用いられたり、『株やオプション、先物などの金融商品が取引される市場では、信用取引で設定される「margin=証拠金」と同義語』として使われる例まであるそうです。

(7) エクスポージャー (exposure)

 この exposure は、いつも説明に困る用語です。ここでは、『債券や株への投資、融資などをして将来損失を被るリスクを負う状態』だと説明されています。例としては、『「Bank A has a 20% "exposure" in Country B = A 銀行は B 国に 20% のエクスポージャーを抱える」』があげられています。

(8) 給付付き勤労所得税額控除 (earned income tax credit)

 1975 年から米国で導入されている「earned income tax credit (EITC) = 給付付き勤労所得税額控除」は、『ある一定の所得までは税額そのものを控除する低所得者向け社会保障制度です。控除額が所得税額を上回れば、その超過分が米国政府から還付』されます。制度設計として興味深いのは『所得の一定額までは控除額が増えるように設計され、働く意欲を増進させるような工夫』がされている点です。EITC は、『課税最低限以下の低所得者に対し、税額控除できない分が給付される特性』があり、消費税の逆進性対策として有効性が認められているいっぽう、『米国では EITC の過払いが支払総額の 3 割に上るなど制度執行上の問題も指摘』されているそうです。
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2021年09月30日

「カンマの女王」

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メアリ・ノリス (Mary Norris) 著
有好 宏文 訳
柏書房 出版

『ニューヨーカー』の校正係が書いたこの本の原題「Between You & Me: Confessions of a Comma Queen」の Comma Queen とは、訳者あとがきによると、『ドラマ・クィーン』(ドラマのヒロインにでもなったかのような気分でささいなことに大騒ぎしてみせるひと) のもじりで、『カンマというささいなものに大騒ぎする困ったひと』という雰囲気があるそうです。

 しかも、この原書はベストセラーとなり、2 冊目の「Greek to Me: Adventures of the Comma Queen」もすでに出版されているそうです。注目すべきは、1 冊目の a Comma Queen が the Comma Queen になっている点です。この the Comma Queen は、TED トークにも登壇していて、この本でも垣間見ることができるユーモアのセンスを披露しています。

 読み始めたとき、この本を日本語にして世に送りだすという決断は難しいものだったに違いないと思いました。日本語を母語とする読者にとって、わからないことが多いに違いないと直感的に思ったからです。

 実際、句読記号のひとつダッシュの項で『ダッシュに頼ると息が切れることもあるけれど、涙を誘うこともある』と書かれてありますが、わたし自身は理解できませんでした。具体例として、ジャクリーン・ケネディが夫のケネディ大統領が暗殺された後、リチャード・ニクソンのお悔やみの手紙に対して出した、ダッシュを多用した返事があげられています。著者は、それを規則通りに整えたダッシュのほとんどないバージョンと読み比べられるようにしていますが、両方読んでみても、前者が頻繁にダッシュを使っているということは認識できても、涙は誘われませんでした。

 ただ、意外なことに、英語に対する理解が深められて良かったと思う点もかなりありました。特に印象的だったのは、次の 3 点です。

 ひとつめは、イギリス英語と異なるスペルを始めたアメリカ人の話です。わたしの勤務先の親会社は米国企業なので、ドキュメント類のスペルはアメリカ英語で統一するよう言われています。その確認のために頻繁に辞書をひきながら、どうしてこう微妙に米英で違いがあるのかと疑問に思うことがありました。その答えは、辞書編纂者ノア・ウェブスターにありました。辞書の仕事を始める前に教師をしていた彼は、生徒たちの発音と綴りのひどさに驚き、『ブルー・バック・スペラー』という通称で名を馳せたスペリング本を編纂しました。それらの経験をもとに、辞書を編纂する際、発音に即したスペリングを試みましたが、結果的には大々的なスペリング改革には至らなかったようです。黙字などを排し、発音と表記を一致させようという試みは失敗したと言えるでしょうが、日本の言文一致運動を彷彿させられました。

 ふたつめは、単数の代名詞として、they、their、them を使う問題です。英語には、person、anyone、everyone、no one などの性別を問わない語があるいっぽう、性別を問わない単数人称代名詞がありません。その結果、he、his、him を使ってきたわけですが、その方法が批判されるようになり、they、their、them が使われる場面をよく見かけるようになりました。日本語が母語で文法を頼りに英語を書いている身としては、こういう運用はやめてほしいと不満に思っていました。ただ、これまでの紆余曲折が説明されているのを読むと気が遠くなりました。he-she、she-he、s/he、he/she、s/he/it などの一般的な対応だけでなく、A・A・ミルンの heesh <カレジョ> 案のようにまったく新しいジェンダー・ニュートラルな三人称単数代名詞案も考えだされ、ほかにも hse 案、ip、ips 案 (1884 年)、ha、hez、hem 案 (1927 年) shi、shis、shim 案 (1934 年)、himorher 案 (1935 年) など、数々の提案があったそうです。ひねりだされた案がことごとく消え去る運命にあったのは、代名詞は言語に深く埋めこまれているからだと、著者は言います。苦しんだ末に they、their、them が使われていると思うと、これまでとは違った目で見ることができそうです。

 最後は、タイトルにある『Between You & Me』です。この目的格の代わりに主格を使い『Between You & I』と言ってしまう間違いが多いと著者は指摘し、『主格の代名詞のほうがよりフォーマルだと思われている』のではないかと推察しています。目的格の代名詞の代わりに主格を使ってしまう過ちの例として、大統領をつとめていたバラク・オバマでさえ a very personal decision for Michelle and I <ミシェルとわたしにとってとても個人的な決断> とか graciously invited Michelle and I <ミシェルとわたしをご招待いただき> と言ったと書かれてあります。日本語では、公の場において和語よりも漢語を使おうとする意識があると「あたらしい教科書〈3〉ことば」に書かれてありましたが、それに似たフォーマルに話したい欲求があるのかもしれません。

 そんな細かいことを気にしなくても……と思うこともありましたが、期待以上に楽しめた本でした。
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2021年09月16日

「自動翻訳大全」

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城西 優/山田 優 著
三才ブックス 出版

 ニューラルマシントランスレーション (NMT) が登場してから、機械翻訳が巷に浸透している印象を受けますし、『ポストエディット』という仕事も頻繁に見かけるようになりました。

 ただ、わたしは、NMT を見よう見まねで使っているレベルで、押さえるべきポイントを押さえれば、もっとパフォーマンスをあげられるのではないかと常々疑問に思っていました。

 その疑問の一部に答えてくれたのが、この本です。英日翻訳の『ポストエディット』にばかり目が行ってましたが、英日にしろ日英にしろ、『プリエディット』が大切なのだと気づくことができましたし、その注意点もある程度把握できたので、便利な本だと思います。

 たとえば、英日翻訳を NMT に任せる前に、文の区切りを明確にすること (文末にピリオドがないときはピリオドをつける、主節と従属節を分ける位置に改行を挿入する、またカンマのあと and が続くときはカンマの前で改行を挿入して並列節も分けるなど) が有効です。

 逆に日英翻訳の場合は、固有名詞を最初からアルファベット表記にしておくと翻訳の精度があがる傾向があります。また、英語と日本語の違いを意識して、英語文の構造で日本語を書いておくことも有効です。たとえば、日本語では主語を省く傾向がありますが、都度主語を明記することにより、誤訳が減ります。

 さらに、自動翻訳というより、ツールの組み合わせの妙にも気づかされました。音声を翻訳する場合、音声翻訳ソフトを使うことを考えがちですが、接客ではなく会議の場面では、Google ドキュメントの音声入力を使って文字起こしをしてから、Google 翻訳を使う方法をすすめています。文体や文の長さから想像して、そのほうが良さそうな気がします。

 こうして書籍としてまとめられてあると効率的にコツを吸収できるので、好都合です。
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