2017年02月24日

「翻訳夜話」

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村上 春樹/柴田 元幸 著
文藝春秋 出版

 柴田氏が大学で開いている翻訳の授業に村上氏を招き、学生の質問に答えながら対談したことをきっかけにできた本だそうです。そのほか、翻訳家を志望する人たちや若手翻訳家を前に対談した内容も収められています。

 それらの対談以上に面白かったのは、村上氏が翻訳して出版された短篇(レイモンド・カーヴァーの「収集」。原題は「Collectors」)を柴田氏も新たに翻訳して比べられるようにしてある章です。逆バージョンもあって、柴田氏の既訳(ポール・オースターの「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」。原題は「Auggie Wren's Christmas Story」)と村上氏の訳しおろしも比べられます。しかも、両氏がそれぞれの違いに驚きつつ、それぞれの訳にコメントなさっている部分が対談中にあって、読んでいて贅沢な試みだなと思いました。

 しかも、それらの短篇が作品としておもしろく読めるものなので、行きつ戻りつしながら、英文、村上氏訳、柴田氏訳と何度も目を通しても飽きませんでした。村上氏の訳もそれだけで読むと、何の違和感もなく楽しく読めるのですが、重箱の隅をつつくように細かく柴田氏訳と比べて読むと、柴田氏訳のほうがわたしの好みにあう部分がわずかに多かった気がします。たぶん、カタカナ英語の取り入れ方など、些細なことでありながら馴染まない箇所が村上氏訳にあったのだと思います。そういう自分の好みの発見もあって、これだけ読者を楽しませてくれる試みもそうはないのではないかと思いました。
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2017年02月11日

「日本人の英語」

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マーク・ピーターセン 著
岩波書店 出版

 1988年初版のこの本は、ロングセラーと呼べると思います。わたしが読んだのも、20年以上も前のことです。当時、英語のことを何も理解できていなかったと思うほど驚いたことを覚えています。

 再読して思ったのは、かなり細かく覚えていた内容は、当時どころか現在も苦手とする分野でした。それは、この本の最初に登場する冠詞です。中盤以降の前置詞や時制・相については、説明されている内容がすんなりと理解できる部分も多いのですが、それでも身につかず忘れてしまっていた部分もありました。

 冠詞で、いまもそこまで読めていないと思った例文は、次のようなものです。

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In April, I introduced the coach of my tennis club to an ex-wife of my brother, and by June the two were already married. (4月に、私のテニス・クラブのコーチを、弟の離婚した妻に紹介したが、6月になったら、二人はもう結婚していた。)
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 この文の冠詞を見て、(1) 私のテニス・クラブには、コーチがひとりしかいないこと、(2) 弟は少なくとも二回は離婚していること、この2点がわかります。ただ、問われると考えてわかりますが、さらっと読んで、そう認識することはできません。

 また、定冠詞の使い方では、He is interested in the painting pictures. は、誤りとあります。単に "the" をとるか、He is interested in the painting of pictures. とすれば良いそうです。つまり、painting of pictures と painting pictures には明確な違いがあることになります。前者は、of があるから、painting と pictures は修飾関係にあり、house painting (家のペンキ塗り) ではなく、picture painting (絵を描くこと) だと、painting の意味の範囲が限定されている、そう著者は説明しています。いっぽう後者は、pictures が painting の「目的語」にすぎず、修飾関係ではないので、十分な限定にならないそうです。このあたりの『限定』されているかいないかの判断は、わたしにとって難題です。

 上記で要となっている of のような前置詞は、大きな役割があるにもかかわらず、わたしは意外と見過ごしてしまいます。

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He is out of it today. (今日、彼はどうかしている。)
He is off of it today. (今日、彼は調子が出ない。)
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 off は、out に比べ、相対的に位置が近いというか、距離が短いというか、そういうニュアンスがありますは、こうして並べられると意識しますが、普段はできていません。

 日常的に英語を使っているだけに、情けないかぎりです。
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2017年02月07日

「できる翻訳者になるために プロフェッショナル 4 人が本気で教える 翻訳のレッスン」

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高橋 さきの/深井 裕美子/井口 耕二/高橋 聡 著
講談社 出版

 ダン・ブラウンなどの翻訳で有名な越前敏弥氏が、ある書店のトークイベントに登壇されたとき、(あくまでわたしの物差しで)鋭いご指摘(質問)をなさった方がいらっしゃいました。それが、座談会形式のこの本に登場する 4 人のうちのひとり、井口氏です。

 そのトークイベントが記憶に残っていたので、この本に興味を覚え、読んでみました。4 人は各々、受注する仕事の内容が違うそうです。そのせいかどうかわかりませんが、本書は、特定の分野に限らず、翻訳という業務のあらゆる方面に通用する話題が中心となっています。それはそれで魅力的なのですが、掘り下げられた内容とは言い難いと思います。

 ただ、翻訳に付きものの調べ物に役立つリファレンスの情報が期待以上に掲載されていて、役立ちました。また、井口氏ほどの方でも翻訳スキルをブラッシュアップするために、仕事をする際、決めたテーマ(たとえば、助詞の「は」を極力減らす、読点を極力減らすなど)に意識を集中させ、日本語の使い分けの感覚を習得するといったことを実践されているという話を読み、まだまだ先は長いという実感がわいたことは収穫でした。
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2016年07月14日

「日本人の9割に英語はいらない」

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成毛 眞 著
祥伝社 出版

 少しばかり言葉遣いは乱暴に感じられますし、9割という数字の根拠がやや弱い気もしますが、著者がここで主張していることは、ごくごく一般的なことだと思います。この本に書かれてあるとおり、必要のない英語を学ぶことに貴重な時間を費やすくらいなら、本を読んで教養を身につけ、人格を磨くことに労力を割くべきだと思います。英語は、道具でしかなく、道具が立派でも本人が空虚なら意味がありません。

 ただ、この当たり前過ぎる主張のみで適度な厚さの本にするのは苦しかったとみえ、後半にお勧めの本を並べていたりするのは、本のタイトルから離れ過ぎている気がしました。それに、英語を苦手としながら、もし英語が必要になったらどうしよう……という不安に囚われている方々を説得するだけの力強さは感じられませんでした。
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2015年08月29日

「感じのよい英語 感じのよい日本語」

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水谷 信子 著
くろしお出版 出版

 タイトルを見てもピンときませんが、おもしろい着眼点の本です。日本人が話す英語が存外英語話者から見て失礼と受け取られていることを知ったり、逆に英語話者が話す日本語が感服できても好感がもてなかった自身の経験をもとに、良い印象を与えるかどうかの観点から、日英それぞれの傾向を比較したものです。

 わたしは、普段なにげなく英語話者にならっていることに気づけました。この「なにげなく」というのが曲者で、きちんと理解してコミュニケーションをとっているわけではないので、日本語で話しているときも、そういう傾向になっていることに驚きました。具体的には、

1. あいづちなどを挟まず、相手の言い分が終わるまで待つ
 日本語では、頻繁にあいづちをうったり、相手のことばを引きとって会話を続けたりします。こういう会話の共同作業を著者は「寄り添い」の意識の現れと解釈しています。いっぽう、英語話者は、自分の話しに割り込まれたように感じ、自分の言わんとすることが「尊重」されていないように受けとります。言われてみると、英語と日本語を行ったり来たりするときは、日本語で話していても、明らかに自分のあいづちが減っていることに気づきました。

2. 相手がどうだったかという視点で褒める
 たとえば学生が先生の授業が良かったと思った場合、日本語話者は、目上の仕事をどうこう言うのではなく、自分にとって参考になったなどと自分にひきよせて謝意を述べるが、英語話者は、あなたの何々が良かったと褒めるとありました。そもそもこの褒めるという行為自体、英語話者は日本語話者に比べて頻繁にしている点も違いがあります。わたしもその頻度において、英語話者に傾きつつあるのかもしれないと思いました。

3. 断られることを潔く受けとめる
 日本語話者は、相手に何かお願いするときに、ためらいがちに始め、忙しいなどの相手の事情を理解していることなどを伝えたあとで、おずおずと依頼することが多いかと思いますが、これは英語話者にとっては稚拙に見えるようで、その説明が以下のようになされています。
 Because it shows that the speaker is honest and above board, trying to hide nothing, and is open for a direct refusal. (なぜかというと、話し手は正直で公明正大で、何事も隠そうとせず、きっぱりと拒絶されてもいいという覚悟を持っているということを、示すからです。)
 このことに通じるものがあるのですが、英語話者は、都合が悪いとき、言い方に配慮するもののきちんとノーと伝える姿勢があるので、依頼する側も相手の負担ばかりに眼を向けず、依頼できる傾向がにあるのかもしれません。

 ボリュームとしてはわずか100ページ強ですが、思い当たる部分があって楽しめました。
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