2023年09月02日
「百冊で耕す <自由に、なる> ための読書術」
近藤 康太郎 著
CCC メディアハウス 出版
「百冊で耕す <自由に、なる> ための読書術」は、「三行で撃つ <善く、生きる> ための文章塾」の続編にあたり、前者では、どうインプットすべきか、後者では、どうアウトプットすべきかがテーマになっています。タイトルも読点まで意識されて、対になっています。
本作を読み始めてすぐ、どうインプットすべきか指南を受ける前に、わたしはなぜ読むのかを考えたことがなかったと気づきました。本を読むたび、知らなかった世界を垣間見ることができ、それが好きで読書を続けてきただけで、本を読む目的を考えたことすらなかった自分に驚きました。この本では、読書の意義も述べられています。
著者は、『世界にも、人生にも、そもそも「答え」はないから』、答えや結論を得るために本を読むのではないと断言しています。では、何のために読むのでしょうか。『読書とは、新しい問い、より深い問いを獲得するための冒険』だというのです。
『世の中の常識とされていること、あたりまえと受け入れられている前提を、疑ってかかる。文学の役割とは、極限すれば、そこだ。』著者は、そうも書いています。また、違う角度から、『本を読むとは、孤独に耐えられるということも意味する。世界で一人きりになっても、本の世界に遊ぶことができる』と語っています。
本を読み、著者と向き合い、そのなかからそれまで考えなかったことを考え、新しい問いを得て、自らを変えていく、願わくば成長できるよう。それが読書をするということなのでしょう。タイトルの『耕す』というのは、自らを耕すという意味です。太宰治のことばを借りて『むごいエゴイスト』にならないためとも説明しています。
そういった目的を考えると、自らが読みたいと欲するものだけを読んでいては意味がなく、著者は『百冊選書』(巻末の一覧) を推薦しています。
著者の読書や本に対する考え方には共感できる部分が多く、『百冊選書』にも挑戦してみたいと思えました。その際の読破順序としては、社会科学のリストは、時代の古い方から新しいのに向けて、文学のリストは、新しい方から古いものにさかのぼるのが良いそうです。
2019年11月26日
「世界の本屋さんめぐり」
ナカムラクニオ 著
産業編集センター 出版
まず最初に、やや難点だと思える点がひとつありました。写真ではなくイラストが使われている点です。その理由は、印象が古くなるのを防ぐためだと著者は説明しています。わたしの意見では、その場の雰囲気が伝わってくる反面、そのものの姿かたちを見たいときには向かないと思いました。たとえば、Flex Oneという折れ曲がる電子ペーパーのイラストが載っていたのですが、見てもよくわからず、結局ネット検索に頼りました。
ただ内容的には主要国以外も網羅されていて読み応えがありました。わたしには、いつか行ってみたい、見てみたいと思っている、本に関係する場所やモノがいくつかあります。この本には、それらすべてが登場し、そのほかにも行きたくなる場所が掲載されています。
まず、本を読む前から行ってみたい見てみたいと思っていたのは、(1) フランスにある短編小説の自動販売機、(2) 「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」という本で知った、パリの『シェイクスピア・アンド・カンパニー (Shakespeare and Company)』、(3) ウェールズの本の町『ヘイ・オン・ワイ (Hay-on-Wye)』です。
著者は、(1) をパリのリヨン駅で見つけたそうです。(この自動販売機は、駅、空港、病院など 100 か所以上に設置済み。) 1 分、3 分、5 分の 3 種類のなかから選んだボタンを押すと、無料で提供されている物語がプリントアウトされます。わたしが気になった新情報は、アメリカで英語版も実験的に始まったことです。
新たに行きたい場所に加わったのは、3 か所。ひとつめは、本好きが泊まるべきホテルと著者が評する『バンコク・パブリッシング・レジデンス (Bangkokg Publishing Residence)』です。1960 年代から週刊誌の出版社兼印刷所として使われていて、活版印刷の活字が展示され、タイプライター、インク、紙のロールなどが飾られ、印刷博物館に泊まった気分を味わえるとか。
ふたつめは、ストックホルムで一番大きい『アカデミー書店 (Akademibokhandeln)』のストックホルム・メステル・サムエルスガータン (Stockholm Mäster Samuelsgatan) 店には、2017 年にオープンした『コーメルク・ブック・アンド・フードカフェ (K-Märkt Bok- & matcafé)』というカフェがあり、ノーベル賞晩餐会で出されたものと同じデザートを食べることができるそうです。ここのパティシエが晩餐会のデザートを担当していることから実現したメニューのようです。
最後は、カナダのトロントにある古本屋『モンキーズ・ポー』(The Monkey's Paw)。2 ドルを入れるとランダムに古本が出てくる『BIBLIOMAT』という古本自動販売機があるそうです。
これらすべての場所に行ってみることはなかなか難しそうです。
2019年03月22日
「世界の美しい本屋さん」
清水 玲奈 著
エクスナレッジ 出版
美しい本屋さんが世界中から 20 軒選ばれています。日本の書店が入っていないのはもちろん、ドイツも入っていません。パリの本屋さんは 4 軒も入っています。
わたしが将来実際に訪れる可能性のある本屋さんという観点で 3 軒選んでみました。
◎Daunt Books Marylebone (ドーント・ブックス・マリルボーン)
www.dauntbooks.co.uk
ロンドンにある書店で、古い趣のある建物に入っている点も素敵なのですが、この本屋さんでは国ごとに本が並べられていて、書店をぐるりと一周すれば世界一周できるという趣向です。日本の棚には誰の作品が並んでいるか、アメリカの旅行ガイドには何が選ばれているか、見てみたい気がします。
◎Livraria Lello (レロ書店)
www.livrarialello.pt/
ポルトガルのポルトにあるこの書店は、見ていて溜息が出そうなほど美しいです。しかも『天国への階段』と呼ばれる階段があります。ポルトガル語などまったくできないので、書店に辿りつけるかもわからないのに、この目で見てみたいと思わせる本屋さんです。Webサイトはポルトガル語だけでなく英語版もあるのですが、お目当てが室内の壮麗な雰囲気なので、あまり役に立ちそうにありません。
◎Barter Books (バーター・ブックス)
https://www.barterbooks.co.uk/
ロンドンの使われなくなった駅舎にある広い書店です。駅舎の待合室だったところは、カフェになり、偉大な作家たちの巨大な肖像画が壁面を飾り、とにかく広さを活用した本屋さんのようで、外観も素敵です。Webサイトには、One of the largest secondhand bookshops in Britainとありました。
ロンドンまで行くのなら、ウェールズにあるヘイ・オン・ワイという古書店街も行ってみたい……などと思っても、いまの引きこもり状態では難しいかもしれません。
2018年09月24日
「絵を読み解く 絵本入門」
藤本 朝巳/生田 美秋 編著
ミネルヴァ書房 出版
絵本を分類し、それぞれに対して考察している良書です。
第T部では、物語絵本、昔話絵本、ファンタジー絵本、ポストモダンの絵本 (従来の形式にとらわれない常識破りな絵本) 、赤ちゃん絵本と分類しています。おもしろかったのは、赤ちゃん絵本です。0 〜 2 歳の赤ちゃんに読み聞かせるそうですが、2 歳はともかく、1 歳未満の子に絵本なんて……と驚きましたが、具体例とともに読み進めると、赤ちゃん絵本も重要なジャンルのひとつだと納得できます。
第U部では、古典/海外、古典/日本、現代/海外、現代/日本の 4 つに分類し、それぞれ 10 点ほどの絵本が紹介されています。
数多くの絵本が具体的に紹介されていて、盛沢山の内容です。時間が許すなら、絵本の実物を手にしながら、1 日 1 冊ずつ絵本の紹介を読むといったペースで、それぞれの個性を味わうといった読み方がおすすめです。随所に絵本の一部のページが転載されているとはいえ、実物を手にするとやはり多くの気づきが得られるからです。
特別印象深かった本が 2 冊あって「もこ もこもこ」と「おんぶはこりごり」です。
「もこ もこもこ」は、前出の赤ちゃん絵本に該当しますが、オノマトペと抽象画が連動する仕掛けで、ストーリーはありません。子供向け本の基本展開である『行って帰る』ではありませんが、抽象画の形が最初と最後で同じになっていて、それが『行って帰る』を感じさせます。オノマトペには音象徴が見られるため、赤ちゃんに読むには良い本だと思います。
「おんぶはこりごり」は、家のなかのことをすべて母親に頼っている一家のはなしです。要は、家のなかのことは、みんなで分担しましょうということなのですが、それが幼児も読む絵本になっている点と遊び絵などを多用して重くなりやすいテーマを謎解きのように楽しめるようになっている点が、わたしにとって斬新でした。
子供が読む本だからこそ、よりいっそう真摯に描かれている作品が多いことに驚かされました。
2018年08月09日
「日本でいちばん小さな出版社」
佃 由美子 著
晶文社 出版
出版社のすべての業務、企画も編集も DTP も営業も経理も、たったひとりでこなしているのが、この本の著者です。どうしてそんなことになったかという経緯から始まり、なんとか先行きの目処が立つようになった頃までの道のりが書かれています。
出版業界の特殊性をある程度知っていたので、よくやるなあと少し呆れた感じで読み始めたのですが、自分が著者に似ていることに気づいてからは、応援したくなりました。
本 (厳密には紙の本) が好きなこと、人が見ていないところでも社会のルールを守りたがるところ、ローリスク・ローリターンで利益を出そうとする慎重さ、ブラックボックスとなっている仕組みに対し想像を巡らしてあれこれ試しボックスの中身を解明しようとする行為など、わたしが著者に似ているところをあげれば切りがないほどですが、著者のように出版社をやりたいなどとは、決して思いません。
なにしろ取次口座を持っているということが、日本でいちばん小さなこの出版社の凄さ、著者の行動力の真似できないレベルなどをあらわしていると思います。