2007年05月02日

「Lena」

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Jacqueline Woodson 著
Puffin 出版

 最近、幼児虐待のニュースを聞くことが多くなりました。今までもあったことが顕在化しているのか、幼児虐待そのものが激増しているのかわかりませんが、ニュースを聞くたび、露見していない同じようなケースがどれだけあるのかを考えてしまいます。そして、自分の良心に自信が持てなくなるのです。もし、幼児虐待が行なわれているのではないかと疑いを持ったとき、私自身がどういう行動をとるのかと。

 そういう事件に巻き込まれたときの自分の大変さを一番に思ってしまうのではないか、虐待を受けている子供のことを一番に考えられないのではないか、と怯えているのです。

 そういう子供たちは可哀想と思っても、気持ちの上では何もわかっていないのです。

 この本の主人公はLena。9歳のときに母親を癌でなくし、父親から性的虐待を受け続け、とうとう13歳のときに、8歳の妹Dionと家出することを決意します。住んでいたオハイオから、母親が生まれたというケンタッキーを目指します。

 この性的虐待を受けていた姉妹の心の動きが細かく描かれているのですが、すべて本当のことをのように思えてきて、心がえぐられるように感じるのです。

 妹のDionは、つらい虐待のことを記憶の中から閉め出そうとし、虐待を受けたことなどないと、姉のLenaに言います。姉のLenaは、逃げ出してきた現実から目を逸らして欲しくはなく、それを思い出させようとします。そうすると、Dionは、自分は悪い子だから、他の子が遭わないこんな辛い目に遭うのだと自分自身を責め始めます。Lenaは、私たち子供が、大人の行動をコントロールできるわけなどないのだから、Dionが悪いわけではない、と言いきかせます。Lena自身、同じ考えを持ち、それを否定しながら、なんとかやってきた過去の道のりを思うと、世の中の理不尽さにさらされる子の前に立ちすくむ自分が居ます。

 家出生活は、過酷です。ヒッチハイクは危険ですし、クリスマスにさえ、暖かいお風呂につかることも、ツリーを見ることもできません。車に乗せてくれた人たちや警察に怪しまれない程度には良心の呵責を感じながらもうまく嘘をつく必要もあります。

 それでも、逃げ出してきたLenaの勇気。私は歳を取りすぎていて、もう大きな夢は見られない。だけど、妹は違う。妹と妹の夢は守ってやらなければ、と立ち上がったLena。13歳で歳をとり過ぎていて夢をもてないというのは悲し過ぎますが、それでも胸をうつものがあります。

 悲し過ぎるけど、勇気を与えられもする本です。もし、私が本当に虐待が行なわれていることを感じたときに、思い出したい本ですし、きっとそのときまで心に残る本です。LenaとDion姉妹のみじめな思いを知るだけで終わる1冊ではないので、ぜひ読んでみて欲しいと思います。
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2007年04月09日

「After」

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Francis Chalifour 著
Tundra Books 出版

 「老後がこわい」で、香山リカさんは、今はご健在のお母さまを失ったときに自分がその喪失感から立ち直れるのか不安だと書かれています。香山さんと言えば、テレビのコメンテーターとしても有名で、医師として大活躍されているイメージがあります。ご自分の立場や意見を確立し、自立されているようにしか見えない香山さんでも、親御さんを失う恐怖に慄いている、というのは少し意外なものの、自分も似たようなものだと思うと、人間とは、本音ではそういうものかもしれないと思います。

 いつかは来るとわかっていても、いい歳をした大人が、親との別れを怖いと思っているくらいですから、子供ならなおさらです。しかも、親が自分たちを残して自殺してしまったとしたら。

 そういう喪失感が綴られているのが、この「After」。

 主人公のFrancisが15歳のとき、父親が自殺します。その後の1年間のことを振り返る形で物語は進みます。

 Francisが12歳のとき、船乗りだった父親は職を失い、新しい仕事にも就けず、暗くふさぎこむようになります。Francisが14歳のとき、父親は自殺しようとし、帰宅したFrancisに見つけられ、命拾いします。そして、15歳のとき、Francisが学校行事でNew Yorkに旅行中、屋根裏で首を吊り亡くなります。

 父親が亡くなったあと、Francisは、なぜ父親を残してNew Yorkなどに行ったのか、と自分を責めます。また、友人の両親は元気で、自分の父親が亡くなったことに、理不尽さを感じます。一方、自分の父親は自分たち家族を残していくのをどう思っていたのか、父親に直接きいてみたいと考えます。

 母親を気遣ったり、死を理解できない歳の離れた弟の面倒を見たり、日常生活において一生懸命生きていながらも、Francisは心に大きな塊をずっしりと感じていることが手に取るようにわかります。

 周囲からすれば、「考えても仕方のないこと」と片付けられてしまうような少年の心の葛藤が細やかに描かれているのです。

 暗い気持ちになってしまう本ですが、もし、誰かを失った喪失感に悩まされているなら、あるいは悩まされたことがあるなら、一読されたらいい本だと思います。
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2007年04月06日

「Holes」

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Louis Sachar 著
Yearling Books 出版

 おもしろさのひとつは、物語の絡み合い方です。約110年前から始まる昔の話と現代の話が交互に語られ、うまく絡み合います。また、それらの伏線が、意外なところで、意外なかたちでつながっていくのです。

 もうひとつのおもしろさは、いい意味での裏切り方です。前回はこういうパターンだったから、今回も同じパターンかと思えば、あっさり裏切られてしまいます。

 最後のおもしろさは、自分に不利にならないようにチーム内でうまく立ち回ることを懸命に考えたり、仲良くなった仲間のことを心配しながらも自分の身の安全とを天秤に掛けながら悩んだり、子供ながらに色々考える主人公の少年Stanlyの心の動きです。

 場所は、Texas州のGreen Lake Camp。Lakeは湖ですが、現在そこにあるのは、オークの木が2本しかないようなカラカラに干上がった、昔の姿を想像すらできない乾燥地帯。しかも、Campと言いながら、そこは罪を犯した少年が更生するための施設。くる日もくる日も、穴をひとりひとつずつ掘り、人格を形成する、ということになっています。ある日、そこに、Stanlyが、有名人がオークションに出した靴を盗んだという罪で入所します。

 Stanlyは、Green Lake Campでうまくやっていくことに知恵を絞りながら、暗黙のルールをひとつずつ学び、ある日、ある結論に達します。毎日穴を掘るのは、人格形成のためではなく、あるものを探すためなのです。

 それと並行して、Stanlyのひいひいじいさん、ひいじいさん、お父さんのお話が語られます。もうひとつ、Stanlyのひいじいさんの時代に生きたSamとKatherineの話が加わります。それぞれの話が進むにつれ、まったく関係ないように見えたそれらの話が徐々に結びつくようになっています。

 出来事は偶然ばかりの集まりですが、それぞれの人物の心の動きが自然なので、引き込まれてしまうのです。物語が絡み合いだすと、読むのを止められなくなってしまいました。
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2007年03月27日

「A Candidate for Murder」

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Joan Lowery Nixon 著
Bt Bound 出版

 舞台が少し物珍しい感じがしますが、全体的に読者を引き込む力が弱いミステリなので、少し物足りない感じでした。

 Texas州知事に立候補した父を持つCaryというニックネームの16歳の女の子が主人公。父親は石油会社を経営し、どちらかというと堅い感じで正義感を持ち合わせているタイプです。それゆえ、現知事の不正や公共事業の腐敗を見過ごせず、自ら知事選に立候補する決意をします。Caryはそんな父を誇りに思い、忙しい父親と過ごす時間が少ないことに多少不満を抱きながらも快適な生活に満足しています。そして、社会に貢献する仕事を生きがいにしている母親ともうまくいっていて、ボーイフレンドや親友ともいい関係を持っているという、絵に描いたような暮らしをしています。

 しかし、そんな夢のような暮らしに、色々な不安が襲ってきます。車で後を付け狙われたり、変な電話が掛かってきたり、部屋に不審者が進入してきたり。そういうことが重なり、Caryは自分の周辺の人々に疑いの目を向け、誰が味方で誰が敵なのか、調べたい衝動に駆られます。そして、そもそも、自分あるいは自分の家族がそんな目に遭うのはなぜかその原因を必死に考えます。

 そして、あることに思い当たります。それは、小説の初めに出てくるパーティのシーン。すべての鍵がそこにありました。

 Caryの周りに起こる事件があまりにもありふれていること、心理描写が浅いことなどから、あまりドキドキ感はありません。

 ただ、基本的に時系列で物語が進んでいくため、英語が多少苦手でも読みやすいと思います。
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2007年03月09日

「Jumping the Scratch」

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Sarah Weeks 著
Laura Geringer Books 出版

 CDが一般的になる前、真っ黒な色をしたレコード盤で音楽を聴いていました。そうっと針を落とすと、レコード盤の微かな上下に合わせて、針が上下しながら、細い溝の上を辿り、徐々に盤の中心に向かっていくのをじっと見ていた記憶があります。

 でも、偶然何かでレコード盤が傷ついてしまっていると、同じ箇所を繰り返し繰り返し針が辿ってしまうことがありました。そんなときは、針を一旦持ち上げ、傷より少し内側に針をもう一度置いたりしていました。

 この本にタイトルにあるScratchは、そんな傷のことです。本の中では、レコードが傷に阻まれ、同じことを繰り返してしまうときは、ドンと振動を与えると、針が傷(scratch)を飛び越える(jump)と、書いてあります。

 この本は、11歳の少年、Jamieの毎日の繰り返し、行き詰る閉塞感から始まります。

 彼は、事情がある叔母さんと母親と暮らすために引っ越しをすることになってしまいます。離れ離れになってしまった父親とは、その最後に後悔が残っている状態。新しい学校にも馴染めず、2ヶ月経っても友達もいません。スクールバスではいつもガキ大将にからかわれ、先生には間違った名前で呼ばれ続け、おまけに、ある作家が特別授業に来たときにも、ちょっとした間違いを犯してしまったり、大人同士の訳知り顔の会話を小耳に挟んでしまったり。そして、何よりも、どうしても忘れたいことを彼は抱えています。あまりいいことない生活。それが、あることをきっかけに変わっていくのです。それが、本のタイトルにあるjump。そしてそのあることは、彼にとっても大きなきっかけになり、またある人にとっても、大きなきっかけにもなるのです。

 そして、叔母さんが抱える病気がタイトルのscratchともjumpとも密接に関わっています。

 著者は、あの「SO B. IT」で有名になったSarah Weeks。この本の著者の欄の下にも「AUTHOR OF SO B. IT」と書かれています。

 タイトルの通り、ドンという振動ひとつがきっかけになって、大きくジャンプし一気に乗り越えていくJamie。一方、「SO B. IT」のハイディは、ひとつひとつ経験しながら、ひとつひとつ学び、自分で道をこつこつ切り開いて、最後には自分にとって大切なものは何かわかるという感じです。そして、どちらも、最後の展開に向かいつつ、「これ」は何なのと、気になる「これ」が先へ読み進みたいという気持ちの種になってます。

 もちろん、どちらがいいというものではありません。ただ、私個人の好みでいうと、少しずつ問題にぶち当たりながら、前に進み続けるハイディのほうが感情移入しやすく、読後の心地よさが続きました。でも、この「Jumping the Scratch」も、大人が読んでも楽しい本であることは間違いありません。
posted by 作楽 at 00:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書(Age:9-12) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする