
メアリー・ウィンターズ (Mary Winters) 著
村山 美雪 訳
原書房 出版
事件の解決を生業としない主人公が活躍するコージーミステリ―のなかでも、本作の主人公の立場が珍しいのは間違いありません。舞台は、1860 年のロンドンで、主人公アミリア・エイムズベリーは、伯爵未亡人です。彼女は、レディ・アガニというペンネームで週刊誌のお悩み相談欄で読者の相談にこたえています。しかも、25 歳という若さの未亡人でありながら、10 歳になる姪の後見人を務めています。
連続殺人事件を扱う本作の最初の被害者は、元海軍提督の長女であり、公爵の婚約者です。転落事故として処理されたものの、その死の真相を目撃した侍女は、どうすべきか考えあぐねた末、レディ・アガニに相談の手紙を送り、その直後に第二の被害者になってしまいます。公園の池で溺死したため、第一の殺人事件同様、事故として処理されてしまいます。
そこで調査に乗り出したのが、侍女は口封じのために殺されたと推理した、主人公です。レディ・アガニの正体が伯爵未亡人だと知られたくないアミリアは、警察を頼らず、自ら犯人捜しを始めます。
キャラクター設定など、珍しさがてんこ盛りではあるものの、わたしの好みとは言い難いコージーミステリーでした。19 世紀が舞台とあって、数多く披露されるお悩み相談はどれも、怖い先生の前で優等生が吐露するささやかな愚痴といったレベルで共感しづらいですし、素人探偵の活躍はゆっくり過ぎて犯人候補がなかなかあらわれませんし、さらには、一緒に謎解きをする侯爵と主人公のロマンスは遅々として進みません。
また、犯人捜しの動機もしっくりきませんでした。世間の目を気にして当然の伯爵未亡人という立場を考えると、会ったこともない侍女の事件を自らの身を危険にさらしてまで解決しようと主人公が執着する理由が腑に落ちません。すでに本作の続編も発表されているようですが、それも読みたいという気持ちには、残念ながらなれませんでした。