2021年04月28日

「アメリカ 50 州を読む地図」

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浅井 信雄 著
新潮社 出版

 正直なところ、アメリカ 50 州のうち、わたしに区別がつくのは東海岸と西海岸の数州のみでした。

 それが本当に少しずつですが、南部や北部の州のことも区別がつくようになっていったのは、この本の影響が大きいと思います。本棚にずっと置き、州の名前がわからなくなると必ず引っ張り出してきたのが、この本です。

 この本を読んで以降、他国に比べ相対的に歴史が短い国であっても、過去のできごとが現在に大きく影響を与えているのは他と同じだと痛感します。印象に残った過去のできごとがいくつかあります。

 メーン州は、1820 年にマサチューセッツ州の一部が分離されてできた州です。その分離の理由が、驚きです。当時、北部の自由州と南部の奴隷州のあいだの微妙な勢力バランスが保たれることが連邦維持のために必要な状況にありました。それなのに、南部のミズーリ州を新たに奴隷州に加えることになったとき、バランスをとるために北部の自由州もひとつ増やさなければならなくなり、北部のマサチューセッツ州をふたつに割り、メーン州を自由州にしたそうです。これは『ミズーリの妥協』と呼ばれています。

 東海岸に位置するコネティカット州は、1636 年に事実上州憲法として認められる『基本的議事規則』を定め、これを参考に合衆国憲法が起草されたともいわれています。州のニックネームは『憲法州』です。州都であるハートフォードは、保険産業発祥の地とも呼ばれ、いまも保険会社が数多く集まっています。最初は海上保険からスタートし、物を輸出するときのリスクに対応したのが発想の原点だったそうです。

 わたしが勤める会社の本社があるノース・カロライナ州には『リサーチ・トライアングル・パーク』があります。文字どおり、研究開発機関が集まっているのですが、思いのほか歴史が古く、第二次世界大戦後、ローレイのノース・カロライナ州立大学、ダーラムのデューク大学、チャペルヒルのノース・カロライナ大学を結ぶ三角地帯に、IBM などの企業と環境・林野行政の研究部門が加わってでき、日本企業からの参入も相次いだそうです。

 第 7 代アンドリュー・ジャクソン大統領は、(カロライナが南北に分割される前の生まれで、出生地は未調査地域だったため、推測の域を出ないそうですが) 現在のサウス・カロライナ州に生まれたと言われています。また彼は、書類を承認するとき、(All Correct ではなく) 発音どおり Oll Korrect と書くのがくせで、それが『OK』の語源になったという説があるそうです。真偽のほどは不明ですが、大統領という立場とのギャップが印象的なことばの由来です。

 逸話も楽しめる 1 冊だと思います。
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2020年10月27日

「分裂国家アメリカの源流」

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水川 明大 著
PHPエディターズ・グループ 出版

 米国資本の会社に勤めているので、ほかの国に比べて米国を知っているつもりでいましたが、その建国については何も知らなかったと、この本が気づかせてくれました。

 この本の初めには米国の 1 ドル札、5 ドル札、10 ドル札が掲載されています。それらに描かれているのは順に、ジョージ・ワシントン、エイブラハム・リンカーン、アレグザンダー・ハミルトンです。

 ワシントンは、アメリカ合衆国の父と呼ばれ、初代大統領を務めました。リンカーンは、第 16 代大統領であり、government of the people, by the people, for the people の演説が有名です。

 著者は、ハミルトンが『アメリカ政府の父』であることは間違いないとしていますが、その割にはいままでわたしが耳にする機会があまりありませんでした。しかし、この本で彼の功績を読めば、『アメリカ政府の父』と呼ばれることも当然に思えます。

 その理由は数多くありますが、わたしが印象に残っているのは、以下の 3 点です。

1.中央集権的統一国家の確立

 わたしは、この本を読むまで意識したこともなかったのですが、北米大陸の 13 の植民地が英国からの独立を宣言したとき、ひとつの国家を作り、その国家が独立すると宣言したわけではありませんでした。(13 の植民地がそれぞれの独立性を維持しつつ、連合して行動を起こしたに過ぎません。)

 そのため当初は州のみが権限を有する状態だったのを、連邦が関税賦課、条約締結、貨幣鋳造などの権利をもつように変えました。

2.国立銀行の創設

 いまのアメリカの領土があるのは、現在の領土のちょうど真ん中あたりを占める 82 万 7000 平方マイルという広大な土地を買わないかとフランスから 1803 年に持ちかけられた際、購入することができたからだと言っても過言ではありません。その資金を調達できたのは、国立銀行がすでに設立されていたからです。この土地購入ひとつとっても、国立銀行が必要となると見越したハミルトンは、偉大だと思います。

3.憲法の広義解釈論の確立

 ハミルトンは『黙示的権限の法理』(憲法の広義解釈論) を完成させました。これは、憲法に記された権限を行使するために必要なあらゆる手段を用いる権利が政府にはあるという考え方、つまり、目的が合憲であれば、そのための手段も合憲であるという考え方のことです。前述の国立銀行も、憲法に定めはありませんが、合衆国政府に付与された権限を行使するために必要であるというこの広義解釈論をもとに創立されました。

 どの点をとっても、ハミルトンの先見の明に驚くほかありません。
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2019年07月13日

「いっしょにうたおう♪ マザーグースのうた」

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鷲津 名都江 著
葉 祥明 絵
Jリサーチ出版 出版

Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall.
All the king's horses,
And all the king's men,
Couldn't put Humpty together again.

 そう軽やかに歌うテープをむかし繰り返し聞いた記憶があるので懐かしくなり、手にとりました。軽い気持ちで読み始めたのですが、思った以上に読み応えがありました。

 おとな向けの解説が巻末にあり、知らなかったことが満載で、リズム感のいいマザーグースの歌の意外な面を知ることができました。

 まず、イギリス伝承童謡の総称として知られるマザーグースという名前は、日本や米国で使われている呼び名で、本家本元、イギリスでの呼称はナーサリー・ライム (Nursery Rhymes) というそうです。

 そして、昔から親しまれている童謡なら当然かもしれませんが、これらの詩から生まれた慣用句もあるようです。上記 Humpty Dumpty から生まれたのは、all the king's men。「壊れたものは元には戻らない」、つまり「覆水盆に返らず」の意味で、新聞の見出しや小説のなかでもよく使われているそうです。ウォーターゲート事件を暴き、ニクソン大統領を失脚させるきっかけとなった、ワシントンポストの記者が書いた本のタイトル「All the President's Men (邦題:大統領の陰謀)」は、all the king's men の king を大統領の President に入れ替えたもので、ニクソン政権が元に戻らないことを示しているとか。

 韻を踏んだ軽快なリズムは、翻訳では味わえないものなので、しばらくの間ダウンロードしたこの本の音源を聞きたいと思います。
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2016年11月17日

「料理でわかるヨーロッパ各国気質」

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片野 優/須貝 典子 著
実務教育出版 出版

 国民の気質と料理の関係性に着目して、ヨーロッパ各国を紹介する本で、次の国が掲載されています。

 1. イギリス 2. フランス 3. オランダ 4. ベルギー 5. ドイツ 6. オーストリア 7. スイス 8. ギリシャ 9. イタリア 10. スペイン 11. ノルウェー 12. スウェーデン 13. ロシア 14. チェコ 15. ハンガリー 16. セルビア 17. クロアチア 18. ボスニア・ヘルツェゴビナ 19. マケドニア 20. トルコ

 地図上でココと指差すのが難しいほど馴染みのない国もありますが、なかには、聞きかじった話とここで解説されている内容が、つながるような国(オランダ、イタリア、スペインなど)もあります。

 オランダの場合、英語に "go Dutch" というフレーズに登場しますが、自分が飲食したぶんだけを自分で支払うこの方式は、日本でもランチのとき日常的に行なわれている方法です。しかしなぜ、この表現にオランダが選ばれたのでしょうか。その答えと受けとれるようなことが紹介されていました。

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オランダでは午前10〜11時と午後7〜8時の1日2回、コフィテイトと呼ばれるコーヒータイムがあり、このときコーヒーと一緒にビスケットを出す習慣がある。ホストがビスケットの缶のフタを開けて回すと、ゲストは順番に1枚ずつ取る。このとき間違っても2枚取ってはいけない。1人につきビスケット1枚、これはオランダ人が長い歳月をかけて培った暗黙のルールで、ここにオランダ人の心が凝縮されている。他方、カトリックが主流のオランダ南部では、2枚以上食べてもとがめられることはない。
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 南部以外のオランダでは、2枚目のビスケットが咎められるようです。ほかのどこの国でもなく、"go Dutch" となったのが頷ける気がします。

 次。イタリアの場合、イギリス人が "Oh, my God"(「おお、神よ」)と発するであろう場面で、イタリア人は "Mammma Mia" (この本では、「ああ、おっかさん」と訳されています) と叫んでしまうと説明され、溺愛されて育った息子は概してマザコンであり、奥さんの前でも「マンマのパスタが一番美味しい!」と、のたまうとか。

 最後。スペインの場合、冷製スープの「ガスパッチョ」のレシピが紹介されたあと、次のように続きます。

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スペインでガスパッチョが重宝がられるのは、別の理由がある。仲間意識が強く、集団行動をとるのが大好きなスペイン人は、レストランで食事をする際も大勢でわいわいやりたがる。しかし、時間にルーズな人々は三々五々とやって来るので、全員がテーブルに着くのはそう簡単なことではない。さんざん待たされた挙句、料理まで待たされたのではやり切れない。そこでスープは、すぐに出せるガスパッチョが尊ばれる。とりわけ国民料理のパエリアなどは、素材だけそろえておけば、あとは火にかけて20分間待つだけでいい。概して、スペイン料理に簡単調理が多いのは、スペイン人気質と無関係ではない。
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 似たような視点で、アジア各国の料理と国民性を紐づけた本もあれば面白いと思います。
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2016年07月29日

「怖い絵」

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中野 京子 著
角川書店 出版

 表紙は、ラ・トゥールの『いかさま師』の一部分です。見る人に強烈な印象を残す、胡散臭い人たちの目つきのせいで、この作品が「怖い絵」に挙げられたのは、納得がいきます。

 そのいっぽうで「怖い絵」に挙げられたのが意外な見慣れた絵もあります。たとえば、ドガの『舞台の踊り子』。『エトワール』とも呼ばれているこの絵は、舞台の袖が見えているものの充分に華やかさがあって、怖い絵などと思ったことはありませんでした。それが、著者による解説を読むと、この絵が違って見えてきます。異なる文化や時代のものを鑑賞するときは、その背景を知っているかどうかで印象が違ってくるのだと、あらためて思いました。

 はじめて知った絵もありましたが、いかにもこれは怖い絵だと直感的に思う絵のグループと一見平和に見える絵のグループからそれぞれ3点ずつ選んでみました。

<いかにも怖い絵>
1. 『我が子を喰らうサトゥルヌス』(ゴヤ) 
  構図などこの絵には関係ないと思わせる圧倒的迫力です。
2. 『イワン雷帝とその息子』(レーピン)
  狂気が伝わってきます。
3. 『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』(アルテミジア・ジェンティレスキ)
  並々ならぬ覚悟と気迫が感じられます。

<一見平和な絵>
1. 『グラハム家の子どもたち』(ホガース)
  裕福な家庭で大切に育てられている可愛い子たちなのに……。
2. 『ガニュメデスの誘拐』(コレッジョ)
  このあとに待ち受けていることを知っているのか……。
3. 『舞台の踊り子』(ドガ)
  現代のバレエとのギャップが大きくて……。
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