2019年04月25日

「古事記と日本人―神話から読みとく日本人のメンタリティ」

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渡部 昇一 著
祥伝社 出版

 日本人の精神面の特性を古事記から読みとこうというのが趣旨です。

 まず古事記のおさらいです。最初の神様、天之御中主神 (アメノミナカヌシノカミ) 以降の初めての男女神は伊邪那岐命 (イザナギノミコト) と伊邪那美命 (イザナミノミコト) で、伊邪那美命が国を産みました。しかし、そのあと神産みのあと黄泉の国に行ってしまいます。あとを追って黄泉の国へ行った伊邪那岐命は帰ってきたあと禊を行ない、左目を洗ったときに産まれたのが天照大神 (アマテラスオオミカミ) です。その孫 (瓊瓊杵尊:ニニギノミコト) がこの世に降臨し、その曾孫が初代の神武天皇になり、現代の天皇まで続いています。

 著者は、古事記と日本人のメンタリティを具体的にどのように結びつけているのでしょうか。

 ひとつの例は、天照大神が天の岩屋戸におはいりになったとき、天宇受売命 (アメノウズメノミコト) が中心となって神前舞踊を奉じたことをあげています。天宇受売命が女神だったことから、この神話と家庭のなかのエンターテイメントの中心であった主婦を結びつけています。娯楽が溢れている現代と違って、昔は主婦を囲んで子供たちが遊びながら過ごした時間が多かったことは確かだと思います。ただ糧を得る仕事に腕力を必要とした時代に主婦がそういった役割を担ったのは、世の東西を問わず自然な流れで、古事記や日本人に限定される話ではないように思います。

 また、伊邪那岐命が伊邪那美命を追って黄泉の国へ行った際、伊邪那美命に見るなと言われたのに待ちきれず、伊邪那美命の恐ろしい姿を見てしまい、逃げ帰る羽目になってしまいました。それだけでなく、お互い報復しあい絶縁状態になるという悲しい結末を迎えたことから、著者は、見てはいけないと言われた状態にある女を見ることは禁忌にあたると説明しています。たしかに、腕力、つまり労働価値が劣る女性は、古来からその価値が労働力ではなく、若さや美しさにありました。だから美しくない、見られては困る状態も生まれますし、それを敢えて見れば軋轢も生まれます。古事記にそういった教訓が書かれてあることは確かだと思います。

 著者の解釈を読みながら、自分なりに古事記を解釈してみるのも楽しいものです。
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2011年07月25日

「一冊でわかる名画と聖書―107の名画とともに聖書のストーリーを解説」

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船本 弘毅 監修
成美堂出版 出版

 これに類する本では「聖書入門」や「すぐわかる キリスト教絵画の見かた」を読んだことがあるのですが、それらに比べると、とてもわかりやすい内容でした。

 ひとつひとつの逸話がわたしのなかでこれほど関連づいたことはありませんでした。たとえば、「イエスはダビデから数えて28代目にあたるとされている」と書かれてあるのですが、それによって、どれくらいの期間にわたってイエスのルーツが語られているのか、具体的なイメージで理解できます。それと同時にあの有名な『エッサイの木』がどれほど簡略化されているのかも、感覚的にわかります。

 これ一冊で、聖書の内容を追うこともでき、宗教画を見るときのポイントもわかるようになっているので、聖書のことをまったく知らないけれど、宗教画を鑑賞してみたい方には、お勧めしたい内容です。入門レベルでは優れた本だと思います。

 理由としては、時代背景が初心者向けに説明されている点が挙げられます。たとえば、その当時、女性はどう見られていたのか、ユダヤ教徒はどういう宗派がどういう価値観で布教していたのか、職業の貴賤概念はどのようなものであったかなどです。

 宗教画を観るうえで興味深いと思ったのは、聖書に記述がないのに敢えて描き入れられている人物や事象の解説です。また、随所でアトリビュートに触れられていたので人物を特定する際に参考になりましたし、画家のエピソードも盛り込まれていて、広く浅く絵画を知ることができ、愉しめました。
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2011年02月03日

「聖書入門」

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ピエール ジベール (Pierre Gibert) 著
船本 弘毅 監修
遠藤 ゆかり 訳
創元社 出版

 聖書を知る入門書としては、残念ながらお勧めできる内容ではありませんでした。入門と謳われているわりには、基本的な知識を前提として書かれてあり、少なくともキリスト教と縁の薄い日本人には入門レベルと呼べる内容ではありません。また、カラー版ですが、その良さがあまり出ていませんでした。本文、絵とその解説、の二種類の内容がそれぞれが気ままに配置されていて読みにくい構成です。本文の内容を効果的に絵が補っているとは言い難いのが残念です。

 肝心の説明の文章に対しても、納得しづらい点がありました。たとえば優れていると評されていても、聖書自体を読んだことがなければ、どういう点がどう優れているのかという根拠の説明がなければ頷けません。

 唯一良かったと感じたのは、巻末にインデックスが設けられている点です。

 聖書を知る最初の一冊に選ぶのだけは避けるべき本だと思います。
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2010年12月20日

「すぐわかる キリスト教絵画の見かた」

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千足 伸行 監修
東京美術 出版

 見開き2ページでひとつの絵画作品を紹介する構成です。おおまかな年代にわけて章立てされています。

第一章 旧約聖書の世界
第二章 キリストの生涯(T)降誕〜活動
第三章 キリストの生涯(U)受難〜復活
第四章 聖母マリアと聖家族
第五章 預言者と聖人の世界

 宗教画がまったくわからないので、画家や作品が適切に選ばれているのかなど評価することはできませんが、広く浅く紹介されている点は、宗教画に親しみのない者としては助かりました。

 シンボルやアトリビュートがわかると、絵を見るのが以前より楽しく感じられます。単なる自己満足なのですが。

 わたしが好きなブリューゲルの「バベルの塔」も載っているのですが、今回初めてみたバーン=ジョーンズの「天地創造」がとても気に入りました。天地創造の6日間が連作になっていて、第5日と第6日が掲載されています。機会があれば、全6作を観てみたいと思いました。
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2010年08月11日

「よくわかるキリスト教」

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土井 かおる 著
PHP研究所 出版

 タイトルに偽りなし。そう太鼓判を捺したくなる本です。分厚い本でもなく、文章も少ないのですが、要点が明快な一覧・地図・イラストなどが使われていて、読み返したりするのも苦にならないほどの分量ながら、キリスト教の根本が理解できた気がします。

 一覧のなかでも特にわたしの理解を助けてくれたのがふたつあります。ひとつはユダヤ教・キリスト教・イスラム教の違いを示めす一覧で、もうひとつは旧約聖書と新訳聖書の内訳とそれぞれの位置づけがまとめられた一覧です。聖書に含まれるそれぞれのおおよその年代や推定著者がひと目でわかるようになっています。

 また、今後もリファレンスのように繰り返し見るだろうなと思ったものもふたつあります。ひとつは、旧約および新訳聖書に登場する主要人物の系図です。よく聞く名前の人物がこういう関係になっているのかと興味深く見ることができました。もうひとつは、ローマ・カトリック教会、東方正教会、プロテスタントなどの違いをまとめたものです。どういう時期にどういう理由で分離したのかが、数ページで説明されています。

 特に覚えたいというほどのこともありませんが、これだけの知識がこの本にあると知っていると、いざ何かキリスト教に関する調べものが必要になったとき便利だと思いました。
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