2021年08月05日

「Sleep, Sleep, Sleep」

20210805「Sleep, Sleep, Sleep」.png

クリスティアン・ベネディクト (Christian Benedict)/ミンナ・トゥーンベリエル (Minna Tunberger) 著
鈴木・ファストアーベント・理恵 訳
サンマーク出版 出版

 睡眠について知りうるすべての興味深い事実を読者と共有することに本書の狙いがあると書かれてあるとおり、睡眠に関する話題が次々と登場します。なかでも驚いた事実がふたつありました。

 睡眠には、レム睡眠と第 1、第 2、第 3 ステージから成るノンレム睡眠の合計 4 ステージがあり、第 1 ステージは、全体のたった 5% しかなく、第 2 ステージが全体の 50% 〜 60% を占め、石のように眠る深睡眠に該当する第 3 ステージの大半は、睡眠の前半に見られます。

 驚いたことのひとつは、この深い眠りのあいだに行なわれる『シナプスのダウンスケーリング』というプロセスに関する仮説です。このプロセスは、新たに形成された神経細胞の接合 (シナプス) のうち、余分なつながりだと分類されたものを除去し、次の覚醒時にまた新しく物事を学び、処理するために必要な容量を確保します。

 その事実から導き出された仮説とは、頭をよく使う人は、新たに得た情報の処理に深い睡眠を多く必要とするため、深い睡眠の量が多いというものです。つまり、睡眠が短くなる高齢者であっても、頭を使い続けていれば、深い眠りを得られる可能性があるというわけです。

 もうひとつ驚いたことは、『テストステロン』という筋肉を作るうえできわめて重要な役割を果たすホルモンは、睡眠時間 5 時間の日が 1 週間続いただけで、血中濃度が 10%〜15% も低下することがわかっていて、身体組成が変化し、筋肉量が減少していくシニアは、睡眠不足を防ぎ、筋肉量の減少と脂肪量の増加を加速させないようにすべきだということです。

 この本を読めば読むほど睡眠の重要性を感じるようになりますが、必ずしも理想とする睡眠が簡単に手に入るとは限りません。そんなときは、熟睡しなければならないとプレッシャーを感じることなく、暗い部屋で横になり、外部からの情報を避けるだけで、脳はリラックスできると自分に言い聞かせることも大切だと著者は説いています。

 さらに、この『暗い』という点は重要で、睡眠ホルモンといわれる『メラトニン』は、部屋が明るすぎると分泌量が減少することがわかっていて、ほんのわずかな明かりでも影響があるそうです。今晩からは、眠れないときも、暗い部屋で休むようにしたいと思います。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月04日

「オタク偉人伝」

20210804「オタク偉人伝」.png

小川 晶子 著
のぶみ 絵
アスコム 出版

 総ルビの子供向けの本ですが、子供時代にフォーカスされた偉人たちの話を横断的に読めるので、大人でもこれまでと違った視点で楽しむことができると思います。

 このなかで第二次世界大戦後に生まれたのはスティーブ・ジョブズのみです。現代人から見ると、経済的にそう恵まれていない子供時代を過ごした偉人が意外に多かったように思います。

 発明王エジソンは、子供のころから実験が大好きで、その理解者であった母親に実験室をつくってもらいましたが、実験の材料や道具が足りず、列車内で新聞を売る仕事をたった 12 歳で始めました。しかも働いている列車内でも実験をしたというつわものです。

 また、後世に残る童話を数多く書いたアンデルセンの物語づくりの原点はお芝居にありましたが、貧しくてたまにしか芝居を見ることができませんでした。それで彼は、お芝居のビラをくばるおじさんと友達になり、一枚もらって帰ったビラを夢中で見て、どんなお話か想像していました。その後、お芝居の世界で役者になることを夢見ましたが、実現できず、物語をつくるという才能をいかして作家になったそうです。

 貧しさなどの障害を跳ね返していくパワーが偉人の要素のひとつなのは間違いないようです。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月23日

「FACTFULNESS ファクトフルネス」

20210723「FACTFULNESS」.png

ハンス・ロスリング (Hans Rosling)/オーラ・ロスリング (Ola Rosling)/アンナ・ロスリング・ロンランド (Anna Rosling Rönnlund) 著
上杉 周作/関 美和 訳
日経BP 出版

 タイトルの FACTFULNESS は、ハンス・ロスリング氏による造語で、事実にもとづいていることを指しています。著者たちによると、人は、さまざまな本能に妨げられ、誤った思い込みによって、自分が接していない世界に対し事実にもとづかない認識を持っているのだそうです。

 この本の最初には、自分がそうした誤解をしている側の人間かどうかを確かめるためのクイズが用意されています。自分の職業を考えると恥ずかしいのですが、わたしも誤って認識している側に含まれていました。

 この本では、そういった誤った認識を誘発する本能、@分断本能、Aネガティブ本能、B直線本能、C恐怖本能、D過大視本能、Eパターン化本能、F宿命本能、G単純化本能、H犯人捜し本能、I焦り本能、を紹介し、それら本能の存在にあらかじめ気づき、事実にもとづかない思い込みによる判断をくださないようそれぞれに対する具体的な注意点が説明されています。

 わたし自身、どの本能にも引きずられているように思いますが、特に、ネガティブ本能 (世界はどんどん悪くなっているという思い込み) が強いのかもしれません。たとえば、世界的に見て収入格差はどんどん広がっているのではないかと感じています。

 著者は、そういったとき、数字など事実をもとに確かめるよう勧めています。収入でいえば、いまだに 1 日 1 ドル以下で生活する方々がいるいっぽう、莫大な収入を得る方が次々と登場しているのは事実で、人々の収入をヒストグラム化すると、横軸は広がっています。ただ、全体的な分布は右側にシフトしていっていることが見てとれるはずだと著者はいいます。

 さらに著者は、10 の本能がどう利用されているのかも指摘しています。わたしたちには、外部の雑音から自分たちを守るための防御壁のようなものが備わっていて、そこには 10 個の穴があり、それぞれが前述の本能と対応し『分断本能の穴』『ネガティブ本能の穴』『直線本能の穴』となっています。マスメディアは、そのことを十分理解していて、その穴を通り抜けられない情報を流そうとはしません。つまり、わたしたちは、マスメディアが本能の穴を利用していることを認識し、防御壁を通った情報に踊らされないようにする必要があるというのです。

 わたしにとっては意外に見える数字を多方面にわたり知ることができた、とにかく衝撃的な一冊でした。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(データ活用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月22日

「Adaptive Markets 適応的市場仮説」

20210722「Adaptive Markets 適応的市場仮説」.png

アンドリュー・W. ロー (Andrew W. Lo) 著
望月 衛/千葉 敏生 訳
東洋経済新報社 出版

 この本では、『適応的市場 (adaptive markets) 仮説』が『効率的市場仮説』よりも優れた仮説だと、さまざまな観点から説明されています。『効率的市場』とは、『合理的で利益の最大化を目指す者多数が活発に競争し合い、それぞれ個別証券の将来における市場価値を予測しようと努めており、重要な最新の情報はすべての参加者がほぼ制約なく入手できる市場……効率的な市場では、競争によって、平均では本質的価値に対する新しい情報の影響が実際の価格にすべて「即座に」反映される市場』を指します。

 ただ、金融市場が効率的市場だと考えると理屈に合わないこともあるため、著者は、金融市場が生物学の法則で動いているという理論で効率的市場仮説に対抗しています。金融市場を動かす人間もまた、ほかの生物と同じように繁殖の成功と失敗、もっといえば生と死という直接的な力を受け、行動を司る脳が形作られてきました。その結果、環境がそれまでと変わったとき、脳がその環境にすぐには適応できず、それまでと同じ行動をとってしまいます。ひとことで言えば不適応な行動をとってしまい、非合理的に見えます。

 金融市場を適応的市場だとする仮説では、金融以外の環境で培われたヒューリスティックス (経験則) をそのまま金融の環境に (誤って) 適応したものにすぎないと考えます。そうすると、非合理的な行動、行動バイアスの生じる仕組みが理解できるようになり、行動バイアスの生じやすいタイミングや行動バイアスが市場の挙動におよぼす効果を予測することができることになります。

 さらにいえば、そういった予測のうえに戦略を立てることもできます。たとえば、株式市場で短期的なヴォラティリティが (市場参加者が動揺するような) 閾値を超えて上昇した際は、パニック売りを想定して、ポートフォリオの一部を現金化し、逆にヴォラティリティが元に戻ったときにはポートフォリオも戻すといったアルゴリズムが考えられます。著者は、時価総額加重平均インデックスを使い、取引コストが取引量の 0.05% と仮定して検証しています。結果は、高めの取引コストにも関わらず、このアルゴリズムによりリターンが向上することが見てとれます。

 このように、生物学的観点から市場参加者を分析するいっぽう、著者は、金融市場そのものの進化にも触れています。まず、人類の個体数が非常に大きくなったため、利用者が大幅に増えたのに併せて金融機関数も増え、起きる問題も巨大化しました。さらに、金融システムが複雑化し、密結合 (システムが適切に機能するためには、構成要素がそれぞれ欠陥なく機能することを要する状態) になっていると分析しています。

 そのうえで著者は、生態系を管理するように金融市場をコントロール (適切に規制) する方法を模索しています。それについては、この本に書かれていることすら完全に消化できなかったわたしなどではこの先の展望をイメージできませんし、この仮説に対するこれからの評価を待ちたいと思います。

 ただひとつ言えることは、著者がこの本の最後に記した、金融システムを使えば世界を良くする道筋を見つけられるという考えが、わたしの金融に対する印象を大きく変えました。600 ページも読むなかで冗長だと思った部分もありましたが、少なくともわたしにとっては読む価値のある一冊でした。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(経済・金融) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月21日

「身近な人の介護で「損したくない!」と思ったら読む本」

20210721「身近な人の介護で「損したくない!」と思ったら読む本」.png

河北 美紀 著
実務教育出版 出版

 親が要介護認定を受けてから 2 年ほど経ちますが、漠然とした不安を抱えています。介護を必要とする状況がどのような速さで変わっていくのか先のことがイメージできないことはもちろん、金銭面の不安もあります。これまではインターネットの情報を頼りに手探りで進んできましたが、ノウハウ本を読んでみるべきだったかも……と思ったのが読んだきっかけです。

 一番印象に残ったのは、介護する側が頑張りすぎて疲弊してしまうと介護される側も辛くなってしまうことです。そういったとき、適宜専門家を頼ることが大切なのだと納得できました。

 そのほか、知って気が楽になった知識がいくつかあります。一番身近な存在であるケアマネジャーさんと考え方が合わないときなどは、地域包括支援センターがや居宅介護支援事業者などにお願いすれば、変更できるそうです。また、急激な体調の変化から、介護認定の現状と合わなくなったときは、要介護度の区分変更申請をすれば、30 日以内に結果を出してもらえること、それも待てないときは、暫定ケアプランをケアマネジャーさんに立ててもらうことができるそうです。

 そして、いよいよ施設のお世話にならざるを得なくなったとき、誰もが直面するのは、特養の空きがないことだと思います。そういったとき、入所は緊急性の度合いに応じて決まるので、できるだけ詳しい状況を申込書に書くこと、幅広い地域を探してみること、それでも無理なときは、短期入所生活介護 (医療依存度が高い場合は、短期入所量要介護) を 30 日間継続して利用し、31 日目は全額自費として、その翌日からまた介護保険を利用して介護を受ける、ロングショート (ショートステイを長期間にわたって利用すること) を検討することなど、色々な方法を検討できるというのは心強く感じられました。もちろん、やむを得ない事情がある場合に限られますが、どうにもならないときも何かしら逃げ道が残されていると知ると、気が楽になりました。

 経済的な視点だけでなく、介護に関する包括的な知識を得られる良書だと思います。身近な人の介護が現実的になった方にお勧めしたい本です。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月20日

「データ分析のためのデータ可視化入門」

20210720「データ分析のためのデータ可視化入門」.jpg

キーラン・ヒーリー (Kieran Healy) 著
瓜生 真也/江口 哲史/三村 喬生 訳
講談社 出版

 データ可視化関連書籍に対する鋭い指摘が載っていました。知覚認知的観点から優れたグラフはどういったものか、改善を必要とする具体例をもとに議論する本もあれば、グラフを作成するコードのレシピを紹介する本もありますが、その両方を兼ね備えた本は、なかなか見当たらないという指摘です。

 良いチャートの条件を語るのに、チャート作成ツールを選ぶ必要がないいっぽう、どのようにチャートを作成するかは、ツールに限った話になるため、良いチャートの議論とチャートの作成手順を分けるのは合理的に見えます。ただ、読者は『わかりやすいチャートを作るプロセス全体』を実現したくて本を頼っているので、前者では、どのように作ればいいのかという問題は解決されず、後者では、どのようなチャートを目指すべきかという問題は解決されません。

 そのため、この本のゴールは『かしこく・わかりやすく・再現可能な方法によるデータ可視化について、その考え方と方法論の両方を紹介すること』となっています。使っているのは、フリーの R とその統合開発環境 (Integrated Development Environment: IDE) RStudio です。

 おもに、tidyverse パッケージ、ggplot() 関数を使ってチャートを作りながら、頭の働かせ方 (principles) と手の動かし方 (practice) の両方を学べるようになっています。使いこなせれば便利だと思ったのは、 ggplot() 関数を使った地図の描画 (第 7 章) です。

 また、この本を機に R の浸透具合を伺い知ることができました。R の各種パッケージをダウンロードできる CRAN (Comprehensive R Archive Network) ミラーサイトは日本にも何か所もあり、日本語ドキュメントも想像以上に充実しています。いつか、地図チャートをとっかかりに R に取り組みたいと思います。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(データ活用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月07日

「データビジュアライゼーションの教科書」

20210707「データビジュアライゼーションの教科書」.jpg

藤 俊久仁/渡部 良一 著
秀和システム 出版

 内容が大きく二分されます。ひとつは理論で、もうひとつは個別具体的なチャートをもとに改善策を示す実践的内容です。前者でおもしろかったのは、ビジュアライゼーションの目的による分類です。後者では、いくつか新しい気づきを得ることができました。

 ビジュアライゼーションの目的による分類は、次のような図であらわされていました。

20210707「データビジュアライゼーションの教科書」1.png

『仮説検証型』の例としては、売上の半分以上はリピーターによって占められているのではないかという仮説を立てたうえで、データを視覚化し、仮説が事実かどうかをデータで裏付けるというプロセスになっています。

『仮説探索型』の例としては、売上を伸ばすためにデータから何かわかることはないだろうかという漠然とした目的や疑問をもとにデータを視覚化し、消費者向けの製品カテゴリを改善させれば売上が伸びるのではないかといった仮説を導き出すプロセスです。

『事実報告型』の例は、売上・利益・客数を週次でモニタリングしたいといった定点観測指標を視覚化し、売上は増えているのに利益が減っているのはなぜだろうかといった傾向の把握や着目点の特定に至るプロセスです。

『事実説明型』の例は、データをもとに伝えたい一連の事実や発見を視覚化し、作り手が伝えたいことを読み手が理解できるようにします。

『事実報告型』の『事実』にしても、『事実説明型』の『事実』にしても、視覚化した時点で何らかの意図が入り込むので、『事実』ということばがありのままの姿を指しているとは言えない気もしますが、著者の意図はわかります。

『主張説得型』は、自分の主張を訴えかけるためにデータをもとに事実や発見を視覚化し、作り手が伝えたいことを読み手が理解するという流れになっています。

『主張表現型』は、データを用いた新しい表現や美しさを追求して、データを視覚化し、読み手の共感・感動が得られるというプロセスを意図しています。

 もちろん、これが絶対的な分類ではないと思いますが、こういった類型化は興味深い試みだと思います。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(データ活用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月06日

「スタンド・バイ・ミー」

20210706「スタンド・バイ・ミー」.png

スティーヴン・キング (Stephen King) 著
山田 順子 訳
新潮社 出版

 以下の二篇がおさめられています。

- スタンド・バイ・ミー (The Body)
- マンハッタンの奇譚クラブ (The Breathing Method)

「スタンド・バイ・ミー」は、映画にもなった有名な作品で、読んでいると、つい「Joyland」を思い出してしまいます。仲間と過ごした時間や古き時代は、もう戻ることができないゆえに、そこに思いを馳せるたび、輝きと重みを増していくものなのかもしれません。

 日本語の『少年』ということばは、『男の子』や『男』といったことばに比べて、ぴったりくるシチュエーションが少ない気がしますが、この物語は、四人の『少年』が一緒に過ごした最後の夏の冒険と称するに相応しい気がします。

 夏の終わり――9 月から始まる新学年の直前、もうすぐ 13 歳になる (英語でいうティーンエイジャーの一歩手前)、クリス・チェンバーズ、ゴードン・ラチャンス、テディ・デュシャン、バーン・テシオの 4 人組が、自分たちと同じ年頃の少年の死体を見に行った 2 日間を、作家になった 34 歳のラチャンスが振り返るスタイルで描かれています。

 それぞれに問題を抱えた 4 人の少年ですが、将来作家になる夢を抱き、実際に作家になったゴードンの人を見る目は『男の子』というにはおとなびていて、『男』というには仲間内の暗黙の了解事項への一途さが真っすぐ過ぎるように感じます。

 さらにクリスにいたっては、恵まれない境遇にあり、『人の足を引っぱるのは人』だという諦念に達していて『男の子』というには成熟し過ぎているいっぽう、自らの孤独を和らげるために不遇仲間を得ようと友人を引きずり込むのではなく、突き放す思いやりがあり、『男』というには不釣り合いな純粋さが感じられます。

 何よりも『少年』を感じたのは、4 人が列車にはねられた遺体を見つけた直後、炎天下のなか 1 日かけて歩いてきた自分たちとは違って、クリスやバーンの兄がいるティーンエイジャーグループが車でやってきて鉢合わせした場面です。ゴードンは、自分たちが彼をみつけたのだから、自分たちに優先権があると声に出して主張し、『年上の体の大きな連中に横盗りさせるわけにはいかない』と、躍起になる姿が、人生においてほんの短い時期にしか起こりえない真の怒りに見えました。

 そんな『少年』の物語に続く、『おとなの男』、「マンハッタンの奇譚クラブ」は、読み始める前は「スタンド・バイ・ミー」の付録のようにしか思えませんでしたが、意外性に満ちていて楽しく読めました。奇譚にフォーカスした作品かと思いきや、結末で示される語り手の推測に、どきっとさせられました。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月05日

「新型コロナワクチン 遺伝子ワクチンによるパンデミックの克服」

20210705「新型コロナワクチン」.png

杉本 正信 著
東京化学同人 出版

 パンデミックという非常事態とはいえ、1 年ほどの短期間でワクチンが開発されたことに驚くと同時に、素朴な疑問が 2 点ありました。(1) なぜ短期間で開発できたのか。(2) なぜ超低温管理が必要なのか。

 HIV ワクチンの開発に従事していた著者の説明は、信頼性が感じられるだけでなく、とてもわかりやすく、わたしの疑問は氷解しました。

 いま日本で接種されている、ファイザー製やモデルナ製ワクチンで用いられている mRNA (メッセンジャー RNA) や アストラゼネカ製ワクチンで用いられている VV (ウィルスベクター) といったワクチンは、病原体に関連したタンパク質をコードする遺伝子 (RNA あるいは DNA) を体内に注入し、体内で抗原タンパク質をつくらせて免疫を誘導する『遺伝子ワクチン』にあたるそうです。

 遺伝子は、生物に必要なタンパク質をつくる設計図のようなものですが、そこから直接タンパク質がつくられるわけではなく、次のように『転写』→『翻訳』という流れを経て、タンパク質ができるのですが、その仕組みがワクチンに利用されています。

@遺伝情報をもっている DNA は、二重らせん構造をしていて、合成するタンパク質の情報部分だけ二重らせん構造がほどかれます。

20210705「新型コロナワクチン」1.jpg20210705「新型コロナワクチン」2.jpg


Aほどけた DNA の片方の鎖に、RNA の材料となる塩基を含むヌクレオチドが近づき、DNA の塩基と相補的な結合をつくっていきます。

20210705「新型コロナワクチン」3.jpg20210705「新型コロナワクチン」4.jpg


Bこうして、二重らせんの片方の塩基配列の一部が RNA に写し取られます。こうしてできた RNA が mRNA と呼ばれ、この過程が転写と呼ばれます。

20210705「新型コロナワクチン」5.jpg

20210705「新型コロナワクチン」5.jpg

CmRNA の塩基配列を元に、アミノ酸が結合されていきます。この過程が翻訳と呼ばれます。

20210705「新型コロナワクチン」6.jpg20210705「新型コロナワクチン」7.jpg


 この仕組みをもとに、COVID-19 の遺伝情報から作製された mRNA は脂質膜でコーティングされ、人体に投与され、体内で mRNA からスパイクタンパク質がつくられて、免疫が誘導されます。スパイクタンパク質は、ウィルス表面にある突起の部分で、感染防御抗原に相当します。

 mRNA は、分解されやすく、ヒトの DNA に組み込まれたりする危険性はありません。ただ、mRNA を脂質の膜でコーティングした脂質粒子にする必要があり、その膜の成分の一部がアナフィラキシーショックを引き起こすのではないかと考えられています。また、出来上がったワクチン製剤は、熱や振動などに不安定で、超低温管理が必要とされます。

 mRNA ワクチンは、初めてヒトに接種されるようになりましたが、先行する技術やアイデアの蓄積があり、決して付焼刃的な技術ではないと著者は説明しています。

 新しいワクチンのメリットやデメリットが素人でもわかるよう解説された良書だと思います。また、今回『転写』→『翻訳』のプロセスに関する画像をお借りした NHK 高校講座もわかりやすくてお勧めです。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月04日

「みえる詩 あそぶ詩 きこえる詩」

20210704「みえる詩 あそぶ詩 きこえる詩」.png

はせ みつこ 編
飯野 和好 絵
冨山房 出版

 はせみつこ (波瀬満子) 氏は、「ウリポ・はせ・カンパニー」を設立し、ことば遊びや詩で構成されるステージをプロデュースしていました。そのため、この本でもことば遊びが中心になっています。

 最初に登場する「いるか」(谷川俊太郎作) は、リズムよく同音多義を楽しんでいて、動物のイルカの絵が描かれてあります。

 いるかいるか
 いないかいるか
 いないいないいるか
 いつならいるか
 よるならいるか
 またきてみるか
 いるかいないか
 いないかいるか
 いるいるいるか
 いっぱいいるか
 ねているいるか
 ゆめみているか

 食い意地がはっていて、擬音語・擬態語が好きなわたしが気に入ったのは「たべもの」(中江俊夫作) です。

 もこもこ さといも
 ほこほこ さつまいも
 はりはり だいこん
 ぱりぱり たくあん
 ぽりぽり きゅうり
 かりかり らっきょう
 つるつる うどん
 ぬるり わかめ
 ねとねと なっとう
 くるんくるん こんにゃく
 しこしこ たこ
 しゃきしゃき はくさい
 こりこり こうめ
 ぷりんぷりんの とまと
 ぴんぴんした たい
 あつあつの ふろふきだいこん
 ほかほかの ごはん

 声に出してリズムよく読みたくなる詩に出会える本です。また、時代や世代の異なるさまざまな詩人の作品が集められているので、新しい詩人にも出会うこともできると思います。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする