2024年05月13日

「思い出せない脳」

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澤田 誠 著
講談社 出版

 脳科学は、わたしにとって興味深い分野で、この本のなかで特に興味深かったのは、『人間の脳は 100% 使われています。少なくとも私たちが普通に生活していれば、脳の中に使っていない部分はありません』という点と『マウスの特定の神経細胞を光で操作する「光遺伝学」という手法で行なわれた研究から』『人工的に記憶を消したり植え付けたりできることが分かって』きた点です。

 自らの経験から、記憶は不確かなことだと誰もが知っていると思います。著者は、『順向干渉』(すでに記憶している古い記憶が、新たに入ってきた情報の記憶に干渉) と『逆向干渉』(新たに入ってきた情報がすでに記憶している情報に対して干渉) などを例にして、記憶の変容を説明しています。後者の例としては、事件の目撃者の記憶が、事件後新たに知った情報によって変容するケースがあげられます。変容してしまった記憶を取り戻すことはできませんし、記憶とはそれほど不確かなものなのに、さらに記憶を消したり植え付けたりする技術が現実になるのは、怖い気もします。

 ただ、この本の主題は、思い出したいのに思い出せないことを減らすためにできることは何かという点です。まずは、記憶を蓄える神経細胞の減少を食い止めるため、血管の健康を保ち、適度な運動をし、質の良い睡眠をとる必要があります。

 さらに、好奇心をもち、心を動かしながら過ごすことも大切です。記憶は、ポジティブな情動 (一時的で急激な感情の動き) によって強化されます。感情が動いたときの記憶は思い出しやすいということです。

 記憶の種類としては、『エピソード記憶』(経験や体験にもとづく記憶) と『意味記憶』(名前や数学の公式など、現代社会で知識と呼ばれているようなものの記憶) があり、前者のほうが情動が動くぶん、後者より思い出しやすくなっています。そのため、意味記憶を丸暗記せずに、なぜそうなるのかという仕組みや理由を知って納得したうえで覚えると、心が動くので記憶に残りやすくなります。

 脳の記憶の仕組みを知れば、これまでよりも記憶力を味方につけることができそうに思えました。
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2024年04月17日

「図書館のお夜食」

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原田 ひ香 著
ポプラ社 出版

 故人となった作家の蔵書を譲り受けて管理する私設図書館が舞台です。夜間のみ開館していること、1000 円の入館料を徴収していること、館内のカフェでは、本に出てくるメニューが提供されていること、従業員はインターネット経由で個別にリクルーティングされていることなど、風変わりな点が目立つ図書館ですが、本好きにとっては心惹かれる場所です。

 連作短編となっている本作では、それぞれの短編にカフェのメニューにちなんだタイトルがつけられています。短編ごとにメインの語り手が代わり、どのように図書館にかかわるようになったのかなどが明かされます。

 風変わりな図書館で起こる、さまざまな小さな事件にしても、図書館にかかわるひとたちの過去にしても、理解しがたい点がいくつかあり、全体的にリアリティに欠けているという印象を受けました。そのいっぽうで、図書館や書店での日常業務は、妙にリアリティがあり、空想と現実を行ったり来たりしているような気分を味わいました。とりわけ、私設図書館を運営するための資金の出所や従業員の採用基準などは白昼夢のようでした。

 私設図書館の設定以外にも、随所に散りばめられた、実在の書籍に関する話題が、本好きには楽しいものの、本のなかの世界全体としては統一感に欠ける気がしました。
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2024年04月16日

「守護者の傷」

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堂場 瞬一 著
KADOKAWA 出版

 同じ著者の「黒い紙」は、企業の危機管理を専門とする会社が舞台になっていた点が珍しく思えました。本作の舞台も、神奈川県警の訟務課という耳慣れない部署です。警察が告訴されたときに対応する組織で、そこの巡査部長、水沼加穂留の視点で物語が進みます。

 水沼は、気になることがあると首を突っこまずにはいられない質で、訟務課に新たに加わった新崎大也について知ろうと躍起になります。新崎は、警察学校に行かず、特例採用の弁護士資格保有者として神奈川県警にやってきたのです。

 弁護士事務所に勤めるでも、自らの事務所を開くでもなく、警察職員になった新崎の意図が見えません。新崎の採用までは外部の弁護士に支援してもらって裁判に臨み、なんら支障がなかったのに、急に内部に弁護士を抱えることにした神奈川県警上層部の意図も見えません。

 同じ部署の先輩たちや元警察官の父親を巻きこみ、水沼は、新崎の目的を探ろうとします。真の目的がなんなのか、新崎が頑なに隠そうとするのはなぜか、先が知りたくて、一気に読んでしまいました。終盤は、警察という閉ざされた世界なら、あってもおかしくないと思える展開に惹きこまれました。

 前半の展開に、もう少しスピーディ感があってもよかったかと思いますが、勧善懲悪的かつ予定調和的な終わりで読後感は悪くありませんでした。
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2024年04月15日

「とっぴんぱらりの風太郎」

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万城目 学 著
文藝春秋 出版

 久々に万城目作品を読みました。主人公は伊賀の忍びのひとり、名は風太郎で『ぷうたろう』と読みます。厳しい訓練に耐え、ようやく一人前というときに追放されてしまい、文字どおり風太郎暮らしなってしまいます。

 しばらくして風太郎は、ふたつの不思議なできごとに巻き込まれます。ひとつは、因心居士 (いんしんこじ) という得体の知れない者にいいように操られる羽目に陥ったこと、もうひとつは、謎に包まれた高貴な方が祇園会に出かける際の護衛を忍び仲間を通して請け負ったことです。

 不思議な力をもつ、正体のわからない存在が登場するあたり、万城目作品らしいファンタジー要素が入っています。同時に大坂冬の陣・夏の陣が時代背景になっていて、歴史小説の要素も入っています。さらに、当時としては珍しかったであろう異国の話題も盛り込まれ、ちょっとしたユーモアも散りばめられ、てんこ盛りの長編ですが、不思議と長さが気になりませんでした。

 読み進めるにつれ、少しずつ不可解なことが解き明かされていくため、つい先を急ぎたくなりました。因心居士の狙いはなんなのか、高貴な方は、どこの誰なのか、なぜ狙われたのか、忍び仲間それぞれの抱える事情はなんなのか。

 そして何より、平和で安定した世に移っていくなか、不要となっていく忍びに残されたそれぞれの道を思うとき、現代のさまざまな消えゆく職業を思わずにいられませんし、不可能としか思えない約束を交わした風太郎が、命を賭してそれを果たそうとする姿から目を逸らすこともできません。

 読んでいるあいだ、時間を忘れてしまうエンターテイメント作品だと思います。
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2024年04月14日

「語彙力こそが教養である」

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齋藤 孝 著
KADOKAWA 出版

 教養は、ないよりもあったほうがいいでしょう。ただ、教養を明確に定義する術もありませんし、教養を身につけるためにはどうしたらいいか、わたしを含め、わからないひとも多いと思います。それに対し著者は、語彙を増やせばよいと指南しています。

 しかも、『本書で言うところの「語彙力」とは、単にたくさんのインプットによって言葉を覚え、知識をつけることだけではありません。それを「臨機応変に使いこなせる力」を含めての「語彙力」です』と、わたしのもつ『教養』のイメージに近いことを著者は目指しています。

 語彙力を高める方法に、エンターテイメントに分類される本やテレビ番組が勧められていて、取り組みやすく感じられました。たとえば、ミステリー関連の『ドートマンダー・シリーズ』(ハヤカワ・ミステリ文庫) や『ミステリーの書き方』(幻冬舎)など、テレビ番組の『100 分 de 名著』や『(新) 美の巨人たち』などがあげられています。

 もちろん、そのあとには太宰治、谷崎潤一郎、夏目漱石などの紹介が続くのですが、著者は、夏目漱石を特に高く評価していて、『漱石以前と漱石以後では、日本語の豊かさはまったく違ったものになりました』とまで書き、彼の作品を音読することを薦めています。

 蘊蓄も多く紹介されているのですが、そのなかでもっともおもしろいと思ったのは、ドイツにおいて夏目漱石と似たような役割と果たしたルターとゲーテです。彼らの以前と以後では、ドイツ語の充実度がまったく違うと著者は言います。ルターは、聖書のドイツ語翻訳に挑戦するなか、聖書のことばにぴったりフィットするドイツ語が見つからなければ、新しいことばを作り、結果的にドイツ語の語彙を豊かにしたということです。1534 年にドイツ語訳の聖書が出版されて以降、それまでラテン語で占められていた出版の世界で、ドイツ語の本も多く作られるようになりました。

 18 世紀半ばに生まれたゲーテは、数々の作品をとおして、『ドイツ語に深みをもたらし』、『そこから、ニーチェ、フッサール、ハイデッガー、といった人物が頭角を現し、語彙的にも思想的にもドイツ語はさらに上質なものになった』と著者は語っています。漢語を借用したり、和製漢語と呼ばれることばを作ったりして語彙を増やしてきた日本語の歴史にルターの逸話が、そのあと、明治に数々の文豪が登場したことにゲーテの功績が重なって見えました。

 教養を身につけるというのは難しそうに聞こえますが、語彙力は具体的にイメージできます。これからは、語彙力を増やせているか、自分に問うていきたいと思います。
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2024年04月13日

「データにのまれる経済学 薄れゆく理論信仰」

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前田 裕之 著
日本評論社 出版

 元新聞記者の著者が、経済学の三大トップジャーナルに発表された論文を中心に、理論よりも『統計的因果推論』や『ランダム化比較試験 (RCT)』などの分析が増えている点に注目し、経済学の潮流をまとめています。経済学の門外漢にもわかりやすい内容だと思います。

 いわゆる計量経済学の分野では、統計学の流派 (以下の図) に対応する、古典派、ベイジアン、ミネソタ不可知論派の 3 派が主だというジャック・ジョンストン (1923-2003) の考えを紹介しています。ただ、ジョンストンは、3 派のどれが生き残るかについては、明言を避けたそうですが、統計学の発展とともに経済学のデータ分析も変遷を遂げてきたことと『推測』の手段に惹かれた様子が窺えました。

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 そんな流れのなか、統計学を活用する際、帰納的なアプローチではなく、演繹的なアプローチをとるべきだという意見があることが紹介されています。つまり、データ分析は理論を実証するものであり、理論は実証されることを想定して完全を目指すという考え方です。

 そういった考え方とは違い、RCT 偏重の風潮もあるそうです。RCT は、治験で新薬と偽薬のグループの結果を比べるかのように介入群と対照群の結果を比べる分析手法で、経済学の研究において近年多用されていますが、懸念点も少なくないようです。因果関係の推定は、因果の定義を明確にするのが難しいだけでなく、さまざまなバイアスの影響も受けやすく、注意が必要のようです。(因果性は、以下の図のような分類が一例としてあげられています。)

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 確率モデルや因果モデルの構築がソフトウェアの活用などで手軽になると、因果推論が簡単に見えてしまうのか、論文発表そのものが目的になって、因果を突き詰めて考えづらくなるのか、理論ありきのデータ分析ではなく、『RCT ありき』といった風潮が見受けられるようです。

 データ分析が隆盛を極めるなか、政策評価への応用が期待されていますが、欧米に比べると日本ではあまり EBPM (Evidence Based Policy Making:証拠にもとづく政策立案) は浸透していないようです。EBPM は、政策介入が政策目標の達成にどのようにつながるのか、『ロジックモデル』と呼ばれる論理構造をもち、政策介入と政策結果が定義・数値化され、政策介入があったときとなかったときの結果を比較するものです。

 効果があったというエビデンスをもとに政策を立案するため、導入すべきように見えますが、実際はそんなに簡単な話ではないようです。いくつか理由があげられていますが、わたしがもっとも納得したのは、分析のもととなるデータが蓄積されていなかったり、使える状態になかったりする点です。データが集計ベースであったり、時系列で追えないようになっていたり、研究者に公開されていなかったりするようです。データ蓄積についても時代とともにトレンドが変わってきましたが、日本の場合、IT システムの遅れが分析の遅れにつながっているように見受けられました。

 データ分析が万能ではないということを再認識すると同時に、データや分析手法を有効に使えるよう、データの価値などを広く知らしめることも必要ではないかと思いました。

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2024年04月12日

「半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防」

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クリス・ミラー (Chris Miller) 著
千葉 敏生 訳
ダイヤモンド社 出版

 著者 (アメリカ人) は、序章で『アメリカは、シリコンバレーの名前の由来となったシリコン・チップを現時点ではまだ支配しているが、近年、その地位は危険なほど弱まっている』と書いています。それに続いて、チップの歴史を振り返り、現時点でのチップにまつわるリスクを著者なりに分析しています。

 この本は、第二次世界大戦の終戦期を振り返るところから始まりますが、チップの歴史を正しく理解するには、本当の『戦争』、つまり熾烈な競争などの比喩ではなく、武器をとって殺し合う戦争の歴史を知ることが戦後世代にとっては不可欠なようです。

 そして、ロシアがウクライナを侵攻したように、中国が台湾を侵攻するかもしれないリスクを考えるとき、わたしたち日本人は、戦争というものを少しは具体的にイメージする必要があるようです。たとえば、『ロシアがウクライナ侵攻開始から数週間足らずで誘導巡航ミサイルの不足に見舞われた』いっぽう、『ウクライナは、1 発当たり 200 個以上の半導体を駆使して敵の戦車を狙い撃ちするジャベリン対戦車ミサイルなど、西側諸国から大量の誘導兵器の供与をうけている』と書かれてありますが、もしこれが中国なら、ロシアほどの窮状に陥ることになるのでしょうか。

 半導体をめぐる熾烈な競争を知りたいと読み始めたものの、半導体を生み育てたのは、戦争に備えるための資金や枠組みであったと知り、半導体と戦争は文字どおり、深く関係するのだと知りました。ほかにも、日本ができなかった設計と製造の分離、グーテンベルク革命になぞらえて『ミードとコンウェイの革命』と呼ばれている手法に資金を提供したのは、DARPA だったことも知りました。

 ただ、IoT の時代、国が国防予算でチップを育てるのも難しくなりました。著者は『国防総省 (ペンタゴン) の 7000 億ドルという潤沢な予算でさえ、国防目的の最先端の半導体製造工場をアメリカ本土に建設するには足りないのが現状』だと書いています。

 アメリカは、チップの設計で重要な役割を担っていますが、製造は台湾に頼っています。では、どう国を守るのでしょうか。アメリカは、『依存』を『武器』に変えることにしたようです。ロシアがウクライナに侵攻した際、ロシアの銀行を SWIFT から締めだしたような、『エンティティ・リスト』を使って中国のテクノロジー大手ファーウェイを締めつけたような手法です。

 しかし、それも相互依存のなか、一定の優位性がなければ、効果は得られません。だからアメリカは、テクノロジーにおいて『相手より速く走り、競争に勝つ』という方針を 1990 年代から掲げています。

 それは、実現可能な目標なのでしょうか。先行者利益 (ファースト・ムーバー・アドバンテージ) は、時代とともに大きくなり、汎用 AI などは最初の開発社がすべてを得るとも言われています。これから必要とされるチップも速いスピードで変わっていくことでしょう。

 この本を読み、わたしの不安はより大きくなった気がします。ただ、チップのサプライチェーンで重要な役割を担う、リソグラフィ装置メーカー、オランダの ASML に対する疑問がとけたのは、収穫でした。1980 年代から 1990 年代にかけての日米貿易摩擦でオランダが中立的だったこと、競合企業との結びつきの深い日本のメーカーを避けて発注する企業が増えたこと、さまざまな供給源から調達した部品をひとつにまとめる能力が突出していたことなどが理由だったようです。

 500 ページほどの大作ですが、それだけの時間をかけて読む価値はありました。
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2024年03月17日

「小さな町」

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ソン・ボミ 著
橋本 智保 訳
書肆侃侃房 出版

『私の夫は三十六歳だが、新聞や雑誌を切り抜いてスクラップしている』という一文で始まるこの本を読むうち、スクラップブックがひとの人生を象徴するものに見えてきました。

 ひとは、自身のことでさえ、すべてをわかっているとはいえず、まして自分以外のひとのことは、その一部を見ているに過ぎないことをあらためて思い知り、それがまるでスクラップブックのようだと感じたのです。

 あるひとの人生を第三者が見たとき、そのひとのほんの一部だけを見て、スクラップするようなイメージです。各人の取捨選択は異なるため、同じひとの人生も、スクラップするひとによって違って見えるに違いありません。もしかしたら、自分自身を含め、見たい部分だけをスクラップブックにして、ひとの人生だと思いこんでいることもありえます。

 ただ、この物語のスクラップブックは、主人公の人生における点のひとつが切り抜かれている点に意味があります。遠い世界のできごととして報じられた記事が、主人公の人生に点在する数々のできごとのひとつとして、ほかの記憶と線でつながれていきます。その過程の叙述には、なぜか惹かれます。

 主人公が、ある小さな町で過ごした幼きころの記憶を辿り、父との再会を機にその記憶を違ったかたちで認識する過程を読みながら、なぜか自身の昔が呼び起されると同時に、自分の記憶の不確かさをあらためて感じました。
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2024年03月16日

「小学生がたった 1 日で 19×19 までかんぺきに暗算できる本」

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小杉 拓也 著
ダイヤモンド社 出版

 いまさら自らの計算力を磨く意味もないのですが、ベストセラーの理由を知りたくて読みました。

 タイトルにあるとおり、2 桁の掛け算のうち、19 以下の数字に限って暗算ができるようになります。21×22 のような掛け算は含まれませんが、大切なのは、筆算以外で答えを求める方法があり、しかも、暗算できるほど簡単な手順が見つけられることを子どもでも理解できる点です。

 問題解決には、それまでと違う視点をもつことも大切だと学べる本だと思います。15×19 という掛け算を例に種明かしをすると、次のようになります。著者は、独自の計算手順に『おみやげ算』という名前をつけて紹介していて、15×19 の掛け算を四角形の面積計算になぞらえています。ポイントは、四角形を分割して配置を変えるとき、一辺が 10 になるように分けることで、暗算ができるようになっている点です。

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 教えられた方法を実践するだけでなく、違うアプローチで答えを見つけられないかと子どもたちが思ってくれたら、素晴らしいと思います。
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2024年03月15日

「日本とウクライナ 二国間関係 120 年の歩み」

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ヴィオレッタ・ウドヴィク 著
インターブックス 出版

 ウクライナがロシアに侵攻され、毎日のようにウクライナのニュースを見聞きする状況でなければ、この本に興味をもつこともなかったと思います。ただ、実際に読んでみると、120 年にわたる、日本とウクライナの交流が、よくまとめられているという印象を受けました。浅くとも広く記録された有益な内容だと思ういっぽう、退屈にも感じます。多岐にわたって紹介されているものの、すべてに関心をもてるわけではないためです。

 わたしが関心をもったのは、文学です。新潮社クレスト・ブックスから出版されている「ペンギンの憂鬱」(2004 年) や「大統領の最後の恋」(2006 年) などの翻訳作品を読んでみたいと思いました。

 しかし、何よりも一番印象に残ったのは、原発事故にかかわる両国の関係です。1986 年 4 月、チェルノブイリ原発 4 号炉が爆発しました。その年の 10 月、読売新聞社と日本対外文化協会は、広島と長崎の被爆者の治療、調査などに実績をもつ 4 人の放射線医学者を『医学協力団』として派遣したそうです。

 それから 25 年経ち、東日本大震災のおり、福島第一原発事故が起こり、日本からウクライナへの支援は相互協力へと発展し、ウクライナの専門家が日本側と経験を共有するようになったそうです。

 地震や津波が日常的に起こる日本において、『安全』を第一に考えれば、電力の一部を原発に依存するのは誤りだったとすれば、それは、セーフティーカルチャーが欠落していたチェルノブイリ原発事故と同じところに原因があると考えられるのではないでしょうか。

 同じ過ちを犯してしまった、ウクライナも日本も、これからどのように廃炉していくのかといった知見を共有しながら、原発のリスクやコスト、付随するさまざまな情報を発信してほしいと思います。
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